教養・歴史書評

信頼のセンスが書いた自分の仕事にあてる恋文=ブレイディみかこ

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 本を売るのは大変なことだ。でも、売るためなら何をしたっていいわけではない。少なくとも、わたしはそう考えている。でも、大変だからこそ何でもする覚悟が必要と考える人もいる。どっちが正しいとかではない。違うだけだ。違うのは、思想や姿勢というより、もっと美意識みたいなもの、つまりセンスだと思う。

 センスは思想や姿勢より肉体的だ。その人の体に染みついている。歩んできた道のりや会って別れてきた人々や読んできた本や聴いてきた音楽や、その人を構成するすべての物の上に生える苔(こけ)がセンスである。だからセンスは変わらない。

 いっそ変えることができたら、と悩んでいるわたしに、「変わらなくていいと思います」と優しく語りかけてくれた本が『古くてあたらしい仕事』(島田潤一郎著、新潮社、1800円)だ。編集者である著者の文章が実直で濁りがないせいか、幾度も涙した。「本はただ単に、情報を紙に印刷して、それを束にしたものではない。それよりも、もっと美しいものだし、もっとあこがれるようなものだ」「ぼくは具体的なだれかを思って、本を…

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