経済・企業

《地銀&メガ》3メガそろって増益でも手放しで喜べないこれだけの理由=杉山敏啓

3メガ業績

 3メガバンクの過去の業績を振り返ると、利益率が低下することで規模拡大の効果を打ち消してしまっている。

そろって増益は8期ぶり

課題が多い収益性の向上=杉山敏啓

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)、三井住友FG、みずほFGの3大メガバンク(3メガ)の2022年3月期決算は、連結純利益が前期比で34%増え、計2兆3679億円と堅調だった。ウクライナ情勢などで、外国債権の引当金計上は増えるも、与信関係費用総額は前期より計2400億円近く減り、増益に寄与した。海外金利が上昇したことで、保有中の外債の含み損が拡大するなど将来の業績低下のリスクはある。だが有価証券全体でみれば含み益が大きく、経営健全性は保たれている。

 3メガそろっての通期決算の増益は14年3月期決算以来8期ぶりだ。決算と同時に、3メガとも今期の年間配当の増配を発表。また、政府の経済界に対する3%賃上げ要請を意識し、実質的な賃上げにも向かう。株主、政府、従業員という各利害関係者にバランスよく配慮する余裕がうかがえる。メガバンクの状況はそれほどまでに順調なのか。増益の発表だけを耳にすれば堅調と思えるが、過去10年を振り返れば、収益パフォーマンス良好とまではいえない。

低リスクの三菱UFJ

 金融機関の収益は、おおざっぱにいえば「規模」と「利益率」の掛け算で決まる。10年前の13年3月期と22年3月期の3メガ合算値を単純に比べれば、総資産の規模は1.55倍に拡大。顧客取引の増強や出資戦略でバランスシートは拡大し続けた。他方、一般企業の売上総利益にあたる業務粗利益(本業から得る収益)も純利益も、10年間で1.07倍と微増だった。

 本来、規模の拡大は収益につながるはずだ。ところが、総資産と純利益の変遷を描くと、総資産は拡大して横方向に移動したが、純利益の縦方向の成長はなかった姿が浮かび上がる(図1)。つまり、利益率が低下することで規模拡大効果を打ち消してしまっている。

 株主の立場からどれだけのもうけを出したかを測る指標の「株主資本利益率」(ROE、純利益÷株主資本)は、22年3月期決算では3メガそろって前期より改善したが、かつての水準には及ばない。過去の推移を見ると(図2・左)、三井住友FGが高位、みずほFGが中位、三菱UFJFGが低位だった年度が多かったように見える。

 だが金融機関の収益パフォーマンスを評価する上では、リターン(収益率)とリスク(収益のぶれ)のバランスが重要だ。そこでROEの10年間の推移の平均からのばらつきを表す「標準偏差」を使って収益変動リスクを見ると、三菱UFJFGはROEの変動が相対的に抑えられ、低リスクだった。

 過去10年間の平均リターンとリスクのプロット図を描くと(図2・右)、三菱UFJFGの傾き(リターン÷リスク)が大きく、リスク・リターンの関係では一番だったといえる。…

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週刊エコノミスト

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