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快走!自転車ツ~リズム ブルーラインで道しるべ 観光客呼び込む仕掛け=宮内忍

    しまなみ海道サイクリングロードの地図
    しまなみ海道サイクリングロードの地図

    「サイクルツーリズム」という言葉をご存じだろうか。最近脚光を浴びているこの概念は、今年6月に閣議決定された国の自転車活用推進計画と密接な関係がある。推進計画には、目標の一つに「サイクルツーリズムの推進による観光立国の実現」が掲げられ、自転車を活用した地域の活性化を目指している。

    特集「快走!自転車ツ~リズム」

     サイクルツーリズムの先進地といえば、広島県尾道市と愛媛県今治市にまたがる「しまなみ海道」だ。全国からの視察も多い。

     しまなみ海道は、1999年に開通した本州と四国を結ぶ3番目のルートで、八つの島が一つの渡船と七つの橋で結ばれている。サイクリングロードの距離は約70キロ。本州と四国を結ぶ3ルートの中で、唯一、自転車の通行が可能だ。沿線の、2015年度の自転車通行量は32万5853台で、12年度からほぼ倍増した(当時の瀬戸内しまなみ海道振興協議会による推計値)。

    今治市にあるしまなみレンタサイクルのターミナル(筆者撮影)
    今治市にあるしまなみレンタサイクルのターミナル(筆者撮影)

    乗り捨て可能なレンタル車

     しまなみ海道の魅力は、独特なロケーションに尽きる。海峡に架かる橋は、航路を維持するため高い位置にある。最も高い「来島(くるしま)海峡大橋」の橋桁までの高さは65メートル。海上の回廊で、橋自体が展望台の絶景ルートである。自転車で走りながら、島の向こうにまた島が見える、まさに“しまなみ”の多島海を眺望できる。

     絶景ルートだけでは年間32万人の来訪はかなわない。しまなみ海道は開通当初から、乗り捨て式のレンタルサイクルを展開している。サイクルツーリズム、すなわち自転車観光地として成功したインフラ面の要因は、レンタルサイクルにあると考える。自転車愛好者であるサイクリストは、自前の自転車を持ち込んで走るが、一般の観光客はレンタルサイクルが頼りだからだ。瀬戸内しまなみ海道振興協議会が行った15年の実地調査では、個人所有の自転車が58・5%、レンタルサイクルが41・5%だった。一般観光客を呼び込めているということだ。

     現在、道の駅など13カ所に「しまなみレンタサイクル」のターミナルが設けられていて、ターミナル間での乗り捨てが可能になっている。18年8月現在、1757台の自転車が用意されている。17年度の貸し出し数は約15万台で、ここ10年、ほぼ右肩上がりで増え続けている。

     レンタルサイクルがあれば、一般観光客の受け入れが可能となり、それを使ったガイド付きツアーなどの次の展開も可能になる。実際に、インバウンド客向けも含めたガイド付きツアーが行われている。レンタルサイクルはサイクルツーリズムに取り組む上で必須のインフラと言える。

     しまなみ海道の成功の要因は、他にもある。安全・安心な走行を担保する施設やサービスの総合的な整備だ。それを支えているのは、官民および広域が連携する日本版DMO(観光地域づくりを担う法人)「しまなみジャパン」の存在である。

     サイクリング用地図とガイドブックは無料版、市販版とも豊富にそろう。加えて来訪者が迷わず走行できるよう、車道左側にサイクリングルートを明示する「ブルーライン」と案内表示が整備されている。

    北海道のモデルルートの一つ「きた北海道ルート」の利尻自転車道線は海と山の絶景ルート(筆者撮影)
    北海道のモデルルートの一つ「きた北海道ルート」の利尻自転車道線は海と山の絶景ルート(筆者撮影)

    休憩場に地元も協力

    「サイクルオアシス」という休憩スペースが、ルート上に100カ所以上あり、地元企業や店舗も多数協力している。地域の人との交流が図れるほか、空気入れの貸し出し、給水、休憩、トイレ利用、インフォメーションなどのサービスが受けられる。パンクなど自転車が故障した際には、持ち込み修理サービスのほか、自転車と人を一緒に運べるタクシーによる「しまなみ島走レスキュー」、専用車による出張修理の「しまなみサイクルセーバー」が助けになる。

     出発地の宿泊先から到着先の宿泊施設への荷物を即日配送できる「しまなみ手ぶらサイクリング」、自転車を持ち込める高速バス「しまなみサイクルエクスプレス」もあり、輸送面のサービスも充実している。

     しまなみ海道は“面”ではなく推奨ルートという“線”を引き、そこを一般観光客レベルの人が迷わず、安全・安心に走れる「道しるべ」を重点的に整備する手法を取った。この手法は、富山、和歌山、高知など他県にも広がった。ちなみに、台湾一周900キロをサイクリングする「環島(ファンダオ)」も同じ手法が取られ、年間に約3万4000人、1日平均100人弱が挑む国民運動にまで発展した。台湾では、環島ルート上の派出所など警察施設がサイクルステーションになっている。荷物を運んで飲食の補給をするワゴン車によるサービスも盛んだ。

     しまなみ海道はいつ訪れても外国人でにぎわう。「平日は、この辺は外国人ばかりです」と今治市にある自転車店スタッフ。尾道市の本通り商店街の入り口には、免税店の地図が掲げられているほど。ゲストハウスも目立つようになった。迷わず安全・安心に走れるサイクリングルートが整備されれば、インバウンド観光の準備が整ったことになる。仕上げは情報提供の多言語化だ。しまなみ海道の無料サイクリング用地図はすでに、しまなみジャパンによって4種の多言語版(英語・韓国語・中国語2種)が配布されている。来訪者が最も多いのは台湾で、香港、米国、オーストラリア、フランスと続く。

     しまなみ海道が通る愛媛・広島両県以外にも、サイクルツーリズムへの取り組みが進んだ地域が増え続けている。北海道、青森、茨城、静岡、滋賀、和歌山、高知、山口、大分、沖縄などだ。

     例えば北海道では、国土交通省北海道開発局と北海道が、専門家でつくる検討委員会の意見を踏まえ、「きた北海道ルート」「富良野・占冠(しむかっぷ)ルート」など、広域の五つのモデルルートを設定した。平均距離334キロで、泊まりがけの行程になる。長距離になるため、休憩施設やメンテナンス設備の確保、ルート案内看板や路面表示の設置などを試行し、検討会の委員が各コースを自転車で走って、こうした取り組みが適正か検証中だ。

     また、滋賀県も、自転車でびわ湖一周する「ビワイチルート」と滋賀県内の景観の良いスポットや歴史跡を巡る「ビワイチ・プラスルート」を設定し、専用アプリで情報発信を始めた。

     観光地のレンタルサイクルに関して新しい動きがある。電動アシスト自転車が急ピッチで導入されているのだ。

     電動アシスト自転車の生産台数は毎年伸び続けている。自転車産業振興協会によると、17年の生産台数は約56万台。18年は高性能スポーツモデル(Eバイク)の当たり年だ。パナソニック、ヤマハ発動機、ブリヂストンサイクルの主要3メーカーに加え、部品メーカーのシマノと独のボッシュが製造した高性能ユニットを搭載したEバイクが多くのメーカーから発売されたのだ。

    しまなみ海道は海上の回廊。ブルーラインで観光客も迷わず走れる(筆者撮影)
    しまなみ海道は海上の回廊。ブルーラインで観光客も迷わず走れる(筆者撮影)

    電動で長距離観光可能に

     今年登場したEバイクの特徴は、大容量化したバッテリーと多段変速機との組み合わせによる1充電当たり走行距離の伸長だ。モーターによるアシスト量を制限したエコモードで140キロ以上の距離を走行でき、アシスト量が最大のハイモードでも80キロ以上の距離を走行できる高性能モデルが多数そろった。

     山岳リゾート(スキー場)やキャンプ場などを中心に、レンタルEバイクの導入が進んできた。静岡県の伊豆半島は山坂が多く自転車は不向きとされていたが、東京オリンピック・パラリンピックの自転車競技開催地となったことで自転車の聖地を目指し、急ピッチで導入が進んでいる。

     伊豆市修善寺のレンタルEバイク店「いずベロ」は7月、Eバイクを利用して、峠を五つ越える伊豆半島巡り長距離サイクリング(118キロ)の実証実験を行った。自転車愛好者ではない女性2人が参加、途中で1回バッテリーを交換したが問題なく走りきれた。

     欧州の観光地ではEバイクのレンタルとそれを利用したガイド付きツアーが普及している。日本でもEバイクレンタルの普及が加速すれば、一般観光客にも長距離サイクリングを楽しむことが可能となり、サイクルツーリズムの可能性が大きく広がりそうだ。

    (宮内忍・元『サイクルスポーツ』編集長)


    国が目指す「20年度に40ルート」

     国が策定した自転車活用推進計画は、2017年5月に施行された自転車活用推進法に基づくものだ。推進法には15の基本方針が定められており、その中に「自転車を活用した国際交流の促進」「自転車を活用した取り組みで、国内外からの観光旅客の来訪の促進、観光地の魅力の増進、地域の活性化に資するものに対する支援」として、サイクルツーリズムの振興が盛り込まれた。

     自転車活用推進計画の目標や施策には、先進的なサイクリング環境の整備を目指すモデルルートの数として、「17~20年度に40ルート」の目標値が示されている。さらに、日本を代表する「ナショナルサイクリングルート」の創設も視野に入れている。

     サイクルツーリズムに取り組んでいる地域は、モデルルート、さらにはナショナルサイクリングルートに選定されブランド化することが目標になる。

    (宮内忍)

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