大震災で露呈したタワマン「高強度コンクリ」のもろさ=岸崎孝弘
高強度コンクリの「弱点」 大震災で露呈したもろさ まだ存在しない補修材=岸崎孝弘
タワーマンションなど大規模集合住宅の建設に欠かせない高強度コンクリートだが、2011年の東日本大震災による揺れで、もろい壊れ方をしたケースがある。高強度コンクリートは破損しないという神話はすでに幻想である。
筆者が先付けタイルの「高強度プレキャストコンクリート」(PCa)を使ったマンションの改修設計を実施して気づいたのは、高強度コンクリートは確かに強度が高いが、若干もろい壊れ方をするということだ。
東日本大震災で被災した都内の超高層マンションの改修を手掛けたときのことだ。その建物は1平方ミリメートル当たり50~100ニュートン(1ニュートンは重さ1キロの物体に1メートル毎秒毎秒の加速度を生じさせる力)を支える力を持つ高強度コンクリートを使用していたが、震度6弱の長周期振動を受け、柱や梁(はり)の接合部分で2000カ所の躯体(くたい)の剥離欠損が生じていた。構造耐力には影響しない程度だったが、補修費用は仮設も含め約2億円かかった。
しかも、高強度コンクリートの強度に対応した補修材は、まだ存在しない。既存のポリマーセメントモルタルなどを使用するしかないのが現状である。高強度コンクリートは一般に付着性能が低いため、後に補修部分が剥離して落下することのないように配慮しなければならない。このケースでは、モルタルを塗り付けた場所を超高弾性の塗膜で塗り込め、浮きが発生しても落下しないようにする措置を取った。
事故になっていないだけ
これまで、工場で製造し、現場で組み立てるPCaの先付けタイルは、浮きや剥落は起こらないと言われてきた。しかし、実際には、浮きも剥落も発生している。現場張りタイル外壁のマンションであれば、タイルの浮きはエポキシ樹脂注入などの改修工法が確立されているが、先付けタイルの場合は樹脂の入る空隙(くうげき)がないため、この工法が使えない。
また、タイルひび割れなどには、張り替えも一般的に行われる工法だが、躯体を深くまで削り取らないと張り付けモルタルを塗り込める隙間(すきま)すらないのである。
高強度コンクリートは付着性能に難があるため、モルタルで張り付ける工法は避けた方がよい。となると、高強度PCa先付けタイルの浮き部分はアンカーピンなどで外側から物理的に固定するしか方法がない。
外壁の躯体補修部やタイルの剥落は重大な事故につながりかねず、躯体改修やタイル改修は修繕した部分が剥落しないように直すことが求められる。高強度コンクリートだから破損しない、先付けタイルだから浮きや剥落は起こらない、ということは幻想だ。幸い事故になっていないので話題に上らないが、そういったケースが実はいくつも存在することを肝に銘じておく必要がある。
超高層マンションの改修には、まだまだ技術的に解決されていない問題が多くあり、高強度コンクリート対応補修材や、PCa先付けタイルの改修技術の確立などが望まれる。新築時の設計やデザインに関して言えば、タイル張り仕上げ自体を取りやめるべきであると強く警告しておきたい。
(岸崎孝弘・日欧設計事務所社長)