教養・歴史アートな時間

クラシック 鐵百合奈 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会=梅津時比古

    鐡百合奈 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会
    鐡百合奈 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会

    全32曲を八つのプログラムに構成 抒情性豊かなピアニストが演奏

     ベートーベンには32曲のピアノ・ソナタがある。これはヨーロッパ音楽の極みであり、ピアニストにとっても音楽ファンにとっても、かけがえのない芸術作品である。

     歴史に残る大家が32曲の全曲演奏を行っている。何回かに分けて弾くわけだが、その組み合わせ方に考え方が表れ、人となりや芸術観が分かって興味深い。ケンプやバレンボイムのように第1番から順番に進めたピアニストは、作曲年代の流れに沿ってベートーベンの深化の過程を見ようということだろう。

     32曲は初期、中期、後期に分けられるので、変化を持たせて1回の公演ごとにそれぞれの期から選んで組み合わせる方法もあり、過去このプログラミングが最も多いかもしれない。32曲の中には名前で呼ばれる「熱情」「悲愴」「月光」などがあるため、どの回にもこれらの有名曲を1曲入れる場合もある。聴衆の人気が偏らないようにするためだろう。

     また、師のブレンデルの考えを受け継いだフェルナーのように、ベートーベンの中のモーツァルト的なものからの流れ、シューベルト的なものへの流れ、というように分類したピアニストもいる。

     今回ここに紹介するのは、これまでにない全く独自の視点である。全体を8回の公演に分けるのは大方通りだが、第1回から第4回まではそれぞれの1曲目に第1番、第2番、第3番、第4番、と順番に配列してあり、しかも回ごとに、最初の曲と最後の曲の調性が同じになっている(例えば、第1回の冒頭の第1番はヘ短調で、その日の最後の「熱情」もヘ短調)。対して、第5回から第8回は回ごとの最後に第29番、第30番、第31番、第32番とベートーベン最後の曲を順に並べ、連番のソナタ(第16、第17、第18番など)を多く組み合わせる。この見事な対称の構成美だけではない。第1回がヘ短調、第2回がイ長調などと調性を中心にしながら、作品内容の志向性をくみだしてそれぞれの回に題が付けられている。第1回「受苦」から「あこがれ」「構築を求めて」「悲しみ」「精神」「歌のかなた」「いずこへ」「幻想」まで。

     プログラムを組み立て、演奏するのは、東京芸大博士課程の20代で、昨年の日本音楽コンクール2位入賞、そしてベートーベン研究で昨年、今年と「柴田南雄(しばたみなお)音楽評論賞」を連続受賞した鐵百合奈(てつゆりな)さん。何よりも抒情性豊かな音楽表現と本質を鋭くえぐる論文の双方とも本質志向で一体化していることに驚く。全曲演奏は親密な音楽空間として注目される東京・渋谷の「美竹清花(さやか)さろん」で来年から4年にわたり行われる。

    (梅津時比古・毎日新聞学芸部特別編集委員)

    会期 第1回「受苦」2019年2月17日(日)

       第2回「あこがれ」19年6月16日(日)

       第3回「構築を求めて」19年11月10日(日)

       第4回「悲しみ」20年2月23日(日)

       第5回「精神」20年12月6日(日)

       第6回「歌のかなた」21年2月28日(日)

       第7回「いずこへ」21年10月3日(日)

       第8回「幻想」22年2月20日(日)

    会場 美竹清花さろん

    (東京都渋谷区渋谷1-12-8 ILA渋谷美竹ビル)

    問い合わせ ILA(美竹清花さろん)

    TEL 03-6452-6711(平日9時~18時)

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