教養・歴史アートな時間

美術 フェルメール展 現存する作品はわずか35点前後 瞬間凍結された日常の情景=石川健次

    ヨハネス・フェルメール《手紙を書く婦人と召使い》1670-1671年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection) Photo (c) National Gallery of Ireland, Dublin NGI.4535
    ヨハネス・フェルメール《手紙を書く婦人と召使い》1670-1671年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection) Photo (c) National Gallery of Ireland, Dublin NGI.4535

     柔らかな光に抱かれた日常を詩的に描いた17世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメール(1632~75)は、現存する作品がわずか35点前後とその希少性も人気の要因となっている。そもそも寡作なこの画家の傑作10点が来日するというのだから話題にならないわけはない。東京、大阪と巡回し、合わせてフェルメール作品10点を紹介するとともにヤン・ステーンらフェルメールと同時代の巨匠の作品を集め、“黄金時代”と呼ばれる17世紀オランダ絵画の魅力に迫る本展である。

     何はともあれフェルメールだ。43年という短い生涯にフェルメールが描いた絵画は40点に満たないそうだ。図版は「フェルメール後期作品の最高傑作として広く評価されている」(図録から)作品だ。白いブラウスを着た女性が、敷物がかけられた机で一心に手紙を書いている。そのかたわらには、腕組みをしたメイドが立っている。女主人が書き終わるのをじっと待っているのだろう。メイドが見つめるステンドグラスの窓から差し込む光が、室内を優しく包む。穏やかな光景だ。

     ところが、実は穏やかならぬ感情が満ち満ちている。目を凝らして、よく見てほしい。机のこちら側、床に落ちているしわくちゃの手紙を……。どうやらこの手紙、恋人からのものらしい。別れを告げる内容だったのだろうか? 少なくとも女性にとって望ましい内容ではなかっただろう。だとすれば、女性が一心に書く手紙の内容は? 女性の風情から察するに、仲直りを願う、そんな思いにあふれている気が私はする。そういえば、窓の方を向くメイドの視線や表情が、まるで女主人からわざと目をそらしているような感じがしないでもない。女主人の心の葛藤に無遠慮に踏み込まないようにというメイドの気遣いだろうか。

     手紙を書いたり、読んだり、あるいは牛乳を注いだりとありふれた日常の情景を、まるで瞬間凍結されたかのような、終わりのない永遠の時間に、ドラマにフェルメールは昇華させる。1995年から翌年にかけて、米国とオランダで開かれた展覧会にそれぞれ20点を超えるフェルメール作品が並び、世界中からファンが押し寄せた。私もオランダに足を運んだ一人だ。以来、終わりのない永遠の時間、ドラマとの出会いを願い、求め続けている。

     20代前半の作品で主要画題を歴史画から図版のような風俗画へと転じる画期となるなど、以後の方向性を決定づけた《取り持ち女》をはじめ日本初公開の作品を含む本展は、「日本の美術展史上最大のフェルメール展」(同)だ。見逃せない。

    (石川健次・東京工芸大学教授)

    会期 開催中、2月3日(日)まで

       *会期中、一部展示替えあり

    会場 上野の森美術館

       (東京都台東区上野公園1-2)

    開館時間 午前9時~午後8時半

         (入館は閉館の30分前まで/開館・閉館時間が異なる日あり)

    休館日 なし

    料金(前売り日時指定券)

       一般2500円

       大学・高校生1800円

       中学・小学生1000円

       *日時指定入場制

    問い合わせ(インフォメーションダイヤル)

       0570-008-035

       (午前9時~午後8時)

    巡回先 2月16日~5月12日

        大阪市立美術館

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