教養・歴史アートな時間

映画 半世界 消滅しそうな山村を舞台に人生と世界を考えさせる良作=寺脇研

    (c)2018「半世界」FILM PARTNERS
    (c)2018「半世界」FILM PARTNERS

     2040年に全国の自治体の半数近くが「消滅」するというショッキングなリポートが出て5年がたつ。「地方創生」が声高に叫ばれ、政府挙げてこの問題に取り組んでいるかのように見せているが、成果は必ずしもはかばかしくない。

     そんな「消滅」しそうな地域の一つが、この映画の舞台である。三重県南部の山間地で伝統の備長炭を生産、販売する男が主人公だ。演じるのは稲垣吾郎。東京生まれで14歳からSMAPだった人が、見事に山村のさえない中年男を体現してみせた。こういう姿を見ると、日本映画ファンとしてはSMAPもジャニーズ事務所もやめてくれてよかったと思う。新しい魅力的な映画俳優の誕生だ。

     父親の跡を継いで連日黙々と炭を焼いてきたが商売は年々厳しくなり、一人息子の悩みにも向き合えないほど追いつめられている。にもかかわらず、中学時代の同級生が久しぶりに単身で帰郷してくると、何くれとなく面倒を見ようとする。

     自衛隊に進み海外派遣要員になるほど活躍していた長谷川博己演じる旧友は、どうやら訳ありで仕事や家族と離れてきたようだ。あえて訳も聞かぬまま、もう一人の親友、最近、脇役で光る渋川清彦が演じる地元の中古車販売業者とともに、さりげない気遣いを重ねていく。それが、同じ田舎で育った少年時代から続く友情というものだろう。

     そんな山村の小さな世界の向こうには、もっと大きな世界もある。グローバル経済の余波が、地方の自営業を圧迫する。自衛官を辞めた友は、はるか遠い派遣先の過酷な国際情勢で心に深い傷を負ったようだ。米国のトランプ大統領や中国の習近平国家主席が左右する世界と、われわれが日々暮らす世界とが実は繋(つな)がっていることを「半世界」というタイトルともども思い知らせてくれる。

     また、世界とは個人の主観からすれば生まれてから死ぬまでの一生涯だ。40歳目前の同級生3人は、人生の折り返し点とも言える年齢にさしかかって「不惑」どころか何かと惑いがある。自分という世界の半分に来たところで、ほぼ四半世紀前の中学時代を懐かしむ。オジサンたちが浜辺で思い出にふける場面は切ない。

     主人公には、彼を支える幼なじみの妻と級友からのイジメを受けている息子がいる。それぞれに扮(ふん)する池脇千鶴と杉田雷麟(すぎたらいる)が健気(けなげ)な家族像を見せるから、友情劇と家族劇とが交錯して物語はさらに深まる。

     アラフォー世代はもちろん、あらゆる世代に「世界」と「人生」を考えさせる映画だ。

    (寺脇研・京都造形芸術大学客員教授)

    監督 阪本順治

    出演 稲垣吾郎、長谷川博己、池脇千鶴、渋川清彦、小野武彦、石橋蓮司

    2019年 日本

    2月15日(金)~TOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開

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