教養・歴史アートな時間

美術 新・北斎展 HOKUSAI UPDATED=石川健次

    葛飾北斎《弘法大師修法図》紙本1幅 弘化年間(1844~47)西新井大師總持寺 通期展示
    葛飾北斎《弘法大師修法図》紙本1幅 弘化年間(1844~47)西新井大師總持寺 通期展示

    画風を変え続けた巨匠の70年 大規模かつ網羅的に迫る

     最晩年の北斎は浮世絵版画の世界から遠ざかり、肉筆画に力を注ぐようになった。テーマも当世の風俗や流行など通常の浮世絵の世界から離れ、動物や植物、あるいは宗教的な題材を多く描くようになる。図版は最晩年期最大級の作品で縦153センチ、横240センチに及ぶ。北斎研究の第一人者で本展監修者の永田生慈さんが1983(昭和58)年に西新井大師總持寺(そうじじ)(東京)で発見した。画中に落款(らっかん)がないため物置に置かれたままになっていたという。

     アメリカのグラフ雑誌『ライフ』が1999年に選んだ「この1000年で最も偉大な業績を残した世界の人物100人」に、江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎(1760~1849)が日本人で唯一選ばれた。世界で最も知られる日本の芸術家と呼んで過言ではないだろう。なるほど巨大な波に翻弄(ほんろう)される舟を描いた絵と聞けば、多くの人が「ああ、あれ」と思い当たるのではないか。

     20歳でデビューしてから90歳で亡くなるまでの70年間、度重なる画号の改名と歩を合わせるかのように北斎は画風を変え続けた。いわば北斎は自分で自分をアップデート(更新)し続けた。また冒頭で紹介したように、新出作品の登場など北斎の調査研究も評価も一段と高まっている。すなわち自らをアップデートし、今なおアップデートされ続ける北斎の全貌に本展は肉薄する。

     図版の作品にさらに触れたい。画狂老人卍の号を用いていた最晩年に描かれたこの作品は、西新井の地を訪れた弘法大師が、流行していた疫病を鎮めたという總持寺の寺伝(寺に伝わる伝承)がテーマだ。「鬼は病魔を表し、大師がその退散を祈っている場面」(図録)である。「数十枚の美濃紙を貼り合わせてこのサイズに仕上げた」(同)そうだ。木の後ろに身を隠しつつも懸命に吠え続ける犬がいじらしいというか……。襲いかかる鬼にひるむことなく祈る大師に負けまいとしているかのようだ。

     背景は墨一色で黒く塗られている。暗い本堂に高く掲げられた時、闇のなかで赤く彩られた鬼や大師がはっきりと浮き出て見えるようにという北斎の工夫らしい。この作品を発見した永田さんは、本展準備中の昨年亡くなった。最新の研究成果をふまえ、かつてないほど大規模かつ網羅的な内容の本展は、幼少の頃に出会ってから文字通り生涯を北斎研究に捧げた永田さんの集大成にふさわしいと、薫陶を受けた一人として思う。巨大な波に翻弄される舟を描いた絵、そう“Great Wave”と称され世界的に名高い《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》など、おなじみの作品ももちろんそろう。

    (石川健次・東京工芸大学教授)

    会期 開催中、3月24日(日)まで

       *会期中展示替えあり

    会場 森アーツセンターギャラリー(東京都港区六本木6-10-1/六本木ヒルズ森タワー52階)

    開館時間 午前10時~午後8時 火曜日のみ午後5時まで(入館は閉館の30分前まで)

    休館日 2月19日(火)、同20日(水)、3月5日(火)

    料金 一般1600円、高・大生1300円、小・中学生600円

    問い合わせ 03-5777-8600(ハローダイヤル)

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