ドル・円の膠着生む 米1強とリスクオフ=大堀達也
3月に入りドル・円相場は、1ドル=110~111円の狭いレンジで膠着(こうちゃく)状態が続いている。
年明けの1月3日、昨年末まで1ドル=111円台で推移していたドル・円は、一気に104円台後半へと突入。売買が一方向に向かいやすい「AI(人工知能)トレーディング」によって、売りが売りを呼ぶ「フラッシュ・クラッシュ(瞬間的暴落)」が発生したためだ。
その後、米中協議合意への期待感を背景としたリスク選好の改善で「株高・円安」の兆しが見えたが、中国経済の減速に端を発した世界経済の下振れ懸念を受けて腰折れした。
足元のドル・円に方向感が出ない最大の要因は、従来は逆方向に動いてきたドルと円が「同方向」を向いてしまっているからだ。過去、世界景気の好況期にはドル高・円安が進み、世界経済が失速するたびに大きくドル安・円高に振れてきた(図)。円はリスクオンで売られ、リスクオフで買われる安全資産としての性格が強い。一方のドルは好況時に米金利上昇とともに高くなり、双子の赤字が意識されると、売られる。
「強すぎるドルは困る」
ところが今、市場関係者は「ドルも円も強まる」と見始めている。
まず、ドルが強いのは米経済が底堅いからだ。中国・欧州・日本で景気減速が顕在化するなか、米国は経済指標を見る限り堅調で、昨年来の「独り勝ち」を続けている。昨秋のニューヨークダウ平均の暴落以降強まった景気下振れ観測を受け、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ休止に動き、ドル安に振れる局面もあったが、2月雇用統計で3・8%という驚異的に低い失業率が出るなどファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は好調。ドルは強い。
また、ユーロ圏経済の失速で欧州中央銀行(ECB)が利上げの先送りを決め、日銀も金融正常化に動けずにいる。リーマン・ショック後の量的緩和で新興国に流れた大量のリスクマネーが「強い米国」に還流する動きが起きた。これがドル高の圧力を生んでいる。
一方、海外投資家の間で強まっている円高観測の理由もそこにある。
2月26~27日、東京都内で開かれた経済協力開発機構(OECD)・アジア開発銀行研究所(ADBI)共催の「キャピタルマーケッツフォーラム」に参加した三菱UFJ銀行の鈴木敏之シニアマーケットエコノミストは「集まった各国の金融関係者は、一様に米国の量的引き締めの影響を気にしていた」と話す。新興国の資金流入を細らせ、ドル建て債務を膨張させるドル高は、財政収支が脆弱(ぜいじゃく)な新興国経済を直撃し、世界景気を後退させかねない。「皆、強すぎるドルは困ると考えている」(鈴木氏)。
OECDは3月6日、19年・20年の世界経済の成長見通しを引き下げた。市場のリスク回避ムードが、投資家を円買いに走らせることで円高圧力を引き起こしている。
米1強のドル買いと、リスクオフの円買いが、ドルと円の力関係を拮抗(きっこう)させている。
(大堀達也・編集部)