週刊エコノミスト Online変調!ホテル市場

五輪前にホテル売却の動き 求められる新たな「集客策」=沢柳知彦

    浅草を歩く外国人観光客(Bloomberg)
    浅草を歩く外国人観光客(Bloomberg)

     2012年末に始まった第2次安倍政権は観光産業振興に注力し、金融緩和による円安とビザ(査証)発給要件緩和も相まってインバウンド(訪日観光客)ブームが起きた。これを受け、ホテルの稼働率と客室単価が上昇し、新規のホテル開発と既存ホテルの売買が活発に行われてきた。しかし、こうした観光立国シナリオが支えるホテル業界に変調が出始めている。今、何が起きているのか。

    特集:変調!ホテル市場

     ホテルの運営状況をみてみよう。インバウンドブームが成長軌道に乗った14年1月から19年6月までの(1)インバウンド成長率、(2)円・ドル為替レート変動率(0%以上が円安傾向)、(3)東京/大阪のシティーホテルRevPAR(平均客室単価に稼働率を掛けた客室経営指数)成長率をグラフにすると、インバウンド増加がホテル客室売り上げ増加を支えてきたことが一目瞭然だ(図1)。シティーホテルは宿泊料金が高めの大型ホテルを指している。

    (出所)日本政府観光局、サイグナス、国際通貨基金
    (出所)日本政府観光局、サイグナス、国際通貨基金

    自然災害で成長率鈍化

     インバウンド、円安傾向、東京/大阪のシティーホテルの売り上げの間には緩やかな正の相関関係がみてとれる。特に15年はインドネシア・フィリピン・ベトナム・中国へのビザ緩和策と円安傾向で驚異的なインバウンド増加率を記録した時期だった。

     インバウンド主導の成長シナリオは昨年後半から変化している。きっかけは大阪北部地震・中国地方水害・台風による関西空港閉鎖・北海道胆振東部地震など大規模な自然災害が続いたことだ。特に関西空港が数日間の閉鎖を迫られた昨年9月には5年ぶりにインバウンドが対前年同期比で減少した。インフラ復旧は迅速だったが、その後、インバウンド成長率は2桁を回復できていない。中国に次ぐ日本への観光大国である韓国・台湾・香港からのリピート客比率が既に7割を超え、それ以上伸びにくくなってきているという構造的な問題が背景にありそうだ。一方、東京/大阪のシティーホテルの売り上げ好調が継続しているのは、成長率が低下しているとはいえ訪日客数自体が引き続き増加しているからだ。

     こうした中、大阪のビジネスホテルではRevPARの減少トレンドが出てきた。シティーホテルとは対照的に、ビジネスホテルは宿泊特化型で料金が低めの比較的小規模なホテルだ。東京と大阪のビジネスホテルRevPARの昨年と今年の1~6月までのデータを見比べると大阪のパフォーマンス悪化が目につく(図2)。

     背景には供給過剰がある。大阪では外国人の観光ブームでビジネスホテルの新規開発ペースが速く、また国家戦略特区に基づく民泊が認められており、結果的に民泊を含む宿泊施設の新規供給の伸びが宿泊需要の伸びを超過する状況が続いているためだ。今後の着手プロジェクト数は減少するため、2~3年後の新規供給数は減少が予想されるが、それまでは着工済み物件の新規供給が続き、需給バランスは軟調に推移すると考えられる。

     ホテル投資マーケットをみてみよう。スポンサー(設立母体企業)からその関連REIT(不動産投資信託)への売却を除いた第三者間のホテル売買は、当社推計で16~17年には年間約3500億円規模だったが、18年は約2500億円規模に減少した。大型シティーホテルの売買が鳴りを潜めたのが主な理由である。政府による観光振興施策の継続や、今年のラグビーワールドカップ、来年の東京オリンピック・パラリンピック、更には25年の大阪万博といったグローバルイベントが続く中、ホテルは中長期的な成長が見込めるとして、ホテルを買いたいという投資家がいても売り物がない、というのが18年までの状況だった。

    (出所)STR2019
    (出所)STR2019

    相次ぐ大型物件の売却

     ところが、18年後半あたりから売り主側に変化がみられ始めた。米ホテルのヒルトン・グループは保有・運営する大型シティーホテル、ヒルトン小田原の所有権を森トラスト・グループに9月に売却する。また、HISからの敵対的買収提案で一躍脚光を浴びた不動産・ホテルのユニゾホールディングスも、これまでは所有と運営を兼営して事業規模を拡大してきたが、昨年から投下資本を回収してから再投資を行う方針を打ち出しており、7月には銀座7丁目他2件のホテル売却を発表した。これらはオペレーター(運営会社)による資本回収の動きである。

     ホテルの売り上げ成長鈍化を受け、投資ファンドの中には利益確定のための売却を急ぐ動きが表れている。収益成長の鈍化による利回り低下を避けるためだ。さらに、長期保有の投資家の中にも今後の設備更新・改装投資負担を考慮し足元の経営が好調な今のうちに売却しようとする意向もみられる。当社が関与もしくは認識している案件を積み上げるだけでも、昨年を大きく上回る売買金額の規模が予想される。

     一方、海外投資家も含め買い手側の意欲は依然として強い。REITマーケットの復活とゼロ金利政策の継続でスムーズな資金調達環境が続いていることが追い風だ。

     外国人観光客が集まる大阪・京都では、ビジネスホテルの供給過剰感を懸念する声が多くなってきているが、どんなマーケットであっても一本調子で成長が続くことはない。今後は差別化したホテルの魅力が重要だ。普通のホテルとは異なる、例えば無印良品が銀座の店舗内にオープンしたMUJIホテル銀座などがその好例だ。

     インバウンド増加率が鈍化し新規供給が増える現環境下では、デベロッパーやオペレーターの手腕がより問われる。例えば、インバウンドのリピート客をどう引きつけるかがより重要になりつつある。これまでアクティブシニアとして国内旅行需要増加に寄与していた団塊の世代が25年には75歳以上の後期高齢者に移行し始める。縮小を始める国内客宿泊需要の穴を埋める役を担うのは、やはりインバウンドなのである。

    (沢柳知彦・JLLホテルズ&ホスピタリティ事業部長)

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