経済・企業深層真相

米ESGファンド、積水ハウスの経営陣退陣を前会長とともに要求、プロキシファイトの可能性も=桑子かつ代

    積水ハウス・グランフロント大阪のショールーム
    積水ハウス・グランフロント大阪のショールーム

     米国の投資ファンドが、国内大手住宅メーカー積水ハウスの和田勇・前会長らと組み、積水ハウスの現経営陣の退陣を迫った株主提案を行った。4月に予定されている積水ハウスの定時株主総会で、和田氏の取締役復帰のほか、米国の投資ファンドが外国人2人の取締役を送りこむ考えだ。株主委任状争奪戦(プロキシファイト)が展開される可能性がある。

     関係者によると、和田氏は2月14日、積水ハウスに株主提案を提出した。和田氏と現取締役の勝呂文康氏を含む11人の取締役候補の選任と現経営陣の退任を要求している。新たな取締役候補には、ESG(環境・社会・企業統治)投資を進める米スパウティング・ロック・アセット・マネジメント(Spouting Rock Asset Management)、米投資ファンド、チャート・ナショナル(Chart National)の幹部2人が含まれている。チャート・ナショナルの創業者は、レーガン政権とブッシュ父政権時代に米財務長官だったニコラス・ブレイディ氏の子息。

    地面師事件でガバナンス不全

     米国の投資家は積水ハウスがガバナンス(企業統治)を適切に進めていない、という問題意識を持っている。発端は積水ハウスが2017年に東京都渋谷区の土地を巡る詐欺取引、いわゆる地面師事件で55億5000万円の損害を受けた事件。

     米ファンドら株主は、積水ハウスの阿部俊則会長や稲垣士郎副会長など現在の経営トップらが不正取引を認識しながらも損害を発生させ、十分な調査報告書の開示を行わなかったと指摘している。さらに、当時会長だった和田氏が当時社長の阿部氏に事件の責任を求めた後、阿部氏の緊急動議で和田氏が一転解任される形で積水ハウス側が事態の収拾を図ったのは問題があるとみて、ガバナンス改善を求めている。

     ファンドは前会長の和田氏を全面に出してバックアップする形で、積水ハウス側と委任状争奪戦に臨む考えだ。積水ハウスの外国人持ち株比率は2割強(19年1月末現在)。株主提案された新たな取締役には、ルネサスエレクトロニクスの社外取締役の岩崎二郎氏なども入っている。

     ファンド側は和田氏について、地面師事件での責任はあるもの米国やオーストラリアなど海外事業で企業価値を向上させた実績があり、事件後も調査結果の情報公開に意欲を示したとして取締役復帰を後押しする。ただ、和田氏の年齢も考慮し、取締役の就任期間は限定的なものになる可能性もある。海外投資家は経営改革提案などについて記者会見を近く東京で行う予定だ。会見には米国のファンド幹部らも出席する。

    もみ消された調査報告書

     地面師事件は東京五輪決定を受けて不動産価格の上昇が続いていた17年に起こった。和田氏の要請で積水ハウスの社外役員が事件後の18年1月にまとめた調査報告書には事件の詳細な経緯が書かれている。しかし、積水ハウスはこの報告書の公開を拒否。報告書の概要を示しただけだ。その後、個人株主が阿部社長ら代表取締役の4人を善管注意義務違反に問う代表訴訟を提起。そこで大阪地裁の「文書提出命令」を受けて、現在、調査報告書は大阪地裁で閲覧できる状態になっている。この文書命令に対しても、積水ハウスは一部の情報が開示されないよう申し立てを行い、個人名などが黒塗りとされている。

     事件は、都内一等地の80億~100億円程度の値が付くとされる土地について、偽装パスポートなどで保有者になりすました詐欺師グループが積水ハウスの東京マンション事業部の担当者に話を持ち掛けたところから始まる。当初から積水ハウスの担当部門では本当の所有者かどうかの確認が必要という声があった。売買手続きを進める過程で、「本物の土地所有者から売買予約をしたつもりはない」、という内容証明郵便が積水ハウス側に届いた。しかし、社内での関心は事業性などが大部分で、取引の信用性への問題認識はなかったという。

     当時社長だった阿部会長も現場視察に行き、社内では前のめりで契約が進んでいった。調査対策委員会は報告書の中で、当時の阿部社長、和田会長らに結果責任があると説明した。その後、取締役の報酬減俸に加えて、マンション事業本部長が辞任した。

    積水ハウス大阪本社
    積水ハウス大阪本社

     積水ハウスの関係者は「すでに過去の事件だ。コンプライアンス体制は改善している」と語る。

    ブラックロックが3位株主に

     積水ハウスの今回の事件は、日本企業のガバナンス(企業統治)が適切かかどうか、という点で海外の投資家からの注目も高まっている。背景には、オリンパスや東芝など一部上場企業の相次ぐ粉飾決算がある。物言う株主として有名なエリオット・マネジメントは、投資ファンドで多額の損失を出したソフトバンクの株式を大量に取得し、事業改革を求めるなど、海外株主は無視できない存在になっている。ビール大手のキリンホールディングスも14日、英投資運用会社から3月の株主総会での株主提案として、6000億円の自社株買いや取締役選任などを受け、同提案への反対の姿勢を発表した。

     総資産700兆円を超える世界最大の資産運用会社ブラックロックも積水ハウスの株式を買い増している。2月12日現在の持ち株比率は6・34%で3位となり、3日の7位から急浮上しており、今後の動きが注目されている(桑子かつ代)

    *****訂正しました:米ベンチャーファンド、チャート・ベンチャー・パートナーズとあるのは、米投資ファンド、チャート・ナショナル(Chart National)の誤りでした。合わせてファンドの英文名も表記しました*****

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    11月3日号

    コロナ株高の崩壊14 金利上昇で沈むハイテク株 11月にダウ5000ドル暴落も ■神崎 修一17 リスク1 米バブル 下落局面への転換点 ■菊池 真19 リスク2 GAFA 米IT潰し ソフトバンクも試練 ■荒武 秀至20 米大統領選 勝敗予想 バイデンの「雪崩的勝利」も ■中岡 望23 失業率が示 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事

    ザ・マーケット