減益可能性をAIが試算 電鉄、不動産の影響大 電気製品販売・建設も=ゼノデータ・ラボ/編集部
<コロナ 徹底シミュレーション 首都封鎖で沈む・浮かぶ企業>
東京都の休業要請ではなく、外出を厳格に規制するなど、より厳しい首都封鎖(ロックダウン)が起きた場合、最も減益可能性が高い大企業(時価総額2000億円以上)はJR東日本──。
経済・企業分析を手掛けるベンチャー「ゼノデータ・ラボ」が、自社開発のAI(人工知能)「ゼノブレイン」を使い、首都封鎖が上場企業の収益に対して、おおむね1年以内に与えるインパクトを試算した結果だ。(沈む・浮かぶ企業)
複数シナリオ積み上げ
東京都は映画館やライブハウスなどの事業者に対して、4月11日からの休業を要請した。新型コロナウイルス感染拡大と国の緊急事態宣言を受けた措置だ。百貨店やホームセンターには、生活必需品売り場以外は休業を要請した。居酒屋を含む飲食店は営業を午前5時から午後8時まで、酒類の提供は同7時までにするよう求める。
東京都の措置は休業「要請」だが、より厳格な外出を規制し、営業も食料・生活必需品以外は認めない首都封鎖が実施されたケースでは、企業業績にどのような影響が出るのか。ゼノデータ・ラボが徹底シミュレーションした。
同社は独自開発AIに、各企業の決算情報、国内外5000のメディアのニュース、自社・提携するリサーチチームのアナリスト分析や統計データを入力。テキスト・数値を読み込む言語処理と機械学習を駆使して、影響シナリオをデータ化している。
たとえば、JR東日本の場合、「首都封鎖があった場合、東京都で高い確率(事象間の因果関係を示す係数=図では矢印上の数字=1・00)で鉄道需要が減る」→「東京都で鉄道需要が減少した場合、高い確度(係数0・61)でJR東日本に減益影響が出る」という一連の流れから、「東京都での鉄道需要減によるJR東日本への収益可能性スコアはマイナス61・1(1・00×0・61)」という影響シナリオが導かれる(図)。
これらの影響シナリオ別のデータを足し合わせて、増益・減益可能性を数値化したのが、表1と表2のランキングだ。
上述のJR東日本の場合、上記の鉄道需要減という影響シナリオのほか、「東京都の新幹線利用者数減」による影響スコアがマイナス61・1、▽「東京都の物流事業需要減」→「東京都の鉄道需要減」による影響スコアがマイナス29・9、▽「東京都のEC(電子商取引)利用拡大」→「東京都の物流需要増」→「東京都の鉄道需要増」による影響スコアが20・9、といった増減益に関する影響シナリオが13あり、個別スコアを合計するとマイナス186・68となる。
大企業では、JR東日本以外にも4位にはJR東海が入った。いずれも「新幹線利用者数減」「鉄道需要減」が大きく響く。
2位にはすかいらーくホールディングス(HD)、3位にはゼンショーHDが入った。「レストラン需要減」「外食需要減」が影響している。三菱地所、東急不動産HDなどの不動産会社は、「オフィス需要減」にあえぎそうだ。
ゼノデータ・ラボの関洋二郎社長は「一つ一つの事象は考えれば分かることでも、膨大な量の事象をリアルタイムにつなぎ合わせていくことで、これまではできなかった予測が可能になる世界を目指している」と話す。
民泊減で電気製品減
大企業の減益ランキングでは意外なシナリオもある。7位のケーズHDと11位のヤマダ電機だ。両社とも本業とは関係ない「民泊需要減」がもっとも影響する。両社の影響シナリオを追うと「民泊需要減」→「不動産賃貸需要減」→「家庭用空調機器需要減」「生活家電需要減」「キッチン家電需要減」という経路をたどる。
また、綜合警備保障(ALSOK)は、「EC利用拡大」がもっとも影響する。これは「EC利用拡大」→「キャッシュレス決済需要増」→「現金輸送サービス需要減」という経路だ。
中小企業(時価総額2000億円未満)では、外食産業が多い。居酒屋「鳥良」や飲食店を運営するクリエイト・レストランツHDが1位に、三井記念美術館のカフェなどを運営するゼットンが6位に入った。ゼットンは、結婚式場運営も手掛けており、同需要減も影響する可能性が高い。
建設業界は休業を要請されていない。しかし、日特建設は「鉄道需要減」→「鉄道工事需要減」「地盤改良工事需要減」という影響シナリオが合計でマイナス82・6に達した。
一連のデータは、一見無関係の産業にまで影響が及ぶ新型コロナウイルスの経済的脅威を物語っている。
(ゼノデータ・ラボ)
(編集部)