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テクノロジー 挑戦者2020

遠藤謙 Xiborg社長 義足で「走る」を当たり前に

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 足を失っても、健常者のアスリートより速く走れる。それを実現させることで、障害者に対する世の中の見方を変えようとしている。

(聞き手=市川明代・編集部)

 トップアスリート向けの競技用義足の開発と受注販売、その義足を使う選手たちの育成をしています。

Xiborg Genesisを付けて走るジャリッド・ウォレス選手(2015年、16年の全米選手権チャンピオン) Xiborg提供
Xiborg Genesisを付けて走るジャリッド・ウォレス選手(2015年、16年の全米選手権チャンピオン) Xiborg提供

 2016年に発表した「Xiborg Genesis(サイボーグ ジェネシス)」は、義足走行のバイオメカニクスによって、速く走ることに機能を特化させた板バネです。バネの湾曲部分が従来の義足より長く、変形によって生まれる推進力を真上に向かって蹴り上げる力にできるという特徴があります。18年に商品化した「Xiborg ν (サイボーグ ニュー)」は、重心の位置を引き上げることで、より軽く、より扱いやすく感じるようにしました。

 鉄などと同程度の強度がありながら、より軽い、カーボン繊維強化プラスチック製。カーボン繊維と樹脂を混ぜたシート状の素材を型に載せて成形しています。曲げ方向の柔軟性を維持しつつ、ねじれ方向の耐性を高めるにはどうすればいいか、繊維の種類や配置の仕方など、試行錯誤を重ねました。

 現在、当社のサポート選手4人(日本人3人、外国人1人)、そのほかに4人の選手が、この義足を使っています。主な収益は企業協賛金です。サポート選手を増やすことより、当社の義足を使いこなしてくれる選手たちに、より速く走ってもらうことに力を入れています。健常者より速く走れる選手を生み出すことで、世の中の障害者に対する考え方を変える、それが究極の目標です。

 大学では、2足歩行ロボットの研究をしました。高校時代のバスケ部の後輩が骨肉腫で足を切断することになったのが、義足開発に関心を持ったきっかけです。05年に渡米し、マサチューセッツ工科大メディアラボバイオメカニクスグループで7年間、ロボット義足の研究に取り組みました。

健常者より速く

 転機は08年。北京パラリンピックで三冠を達成した南アフリカ代表選手の走りを見て、障害の有無を超えて本当にかっこいいと思いました。いい義足があれば健常者並みに速く走れる、それは衝撃でした。12年に帰国し、ソニーコンピュータサイエンス研究所で研究をスタートさせましたが、開発した義足を販売したり選手とチームを作ったりするのは難しいと分かり、研究所に身を置きながら起業しました。義足の研究成果は研究所に帰属し、当社がライセンス料を支払っています。

 実はもう一つ、新たなビジネスを始めようとしています。素材や成形方法を変えた廉価版の「走るための義足」を作り、一般用に販売することです。一般の義足は20万〜60万円ですが、この義足は10万円程度で販売できると考えています。目指しているのは、従来のように医療機関を通じて支給される義足ではなく、スポーツショップで自ら選べる義足です。障害者が、皇居の周りを、校庭を、当たり前のように走れるようにしたい。新型コロナの影響で頓挫してしまいましたが、今年から地方自治体などと協力し、地域の子どもたちと実証実験を始める予定でした。

 東京五輪・パラリンピックは延期が決まり、代表選考も中止になって、サポート選手たちは精神的に厳しい状況にあります。でも僕たちは、時間ができたことで、より大きなことができると考えています。東京2020を障害者への見方を変える転換期にしたいと思っています。


企業概要

事業内容:競技用義足の開発、受注販売、選手育成

本社所在地:東京都江東区

設立:2014年5月

資本金:90万円

従業員数:5人


 ■人物略歴

えんどう・けん

 1978年静岡県生まれ。2003年慶応義塾大学修士課程修了。05年より7年間、マサチューセッツ工科大メディアラボバイオメカニクスグループで義足開発に従事。12年からソニーコンピュータサイエンス研究所アソシエイトリサーチャー。14年にXiborg創業。

インタビュー

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