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まだ東京に住むならコロナ感染を覚悟せよ 23区の感染率は突出して高かった=藻谷浩介(日本総合研究所調査部主席研究員)

在宅勤務が定着すれば地方生活も選択肢に(長野県安曇野市)
在宅勤務が定着すれば地方生活も選択肢に(長野県安曇野市)

 新型コロナウイルスの感染拡大の状況を日本全体で俯瞰(ふかん)すると、東京都心とそれ以外の地域の、いわば“逆格差”が見えてくる。図は、感染の蔓延(まんえん)度合いと人口密度との関係を示すものだ。人口100万人当たりの陽性者数を縦軸に、山林や湖沼を除いた「可住地面積」当たりの人口密度を横軸にとり、47都道府県と主要大都市の感染率をプロットしている。東京特別区(23区)の感染率が、突出して高いことが見て取れるだろう。

通勤電車では広がらず

 同じ首都圏でも、多摩地区や神奈川県、埼玉県、千葉県の感染率は、全国平均とさほど変わらず、都心の3分の1程度だ。東京特別区に次いで札幌市が高いのは、日本特有の社会的なプレッシャーが弱く、“自粛”が浸透しない土地柄ゆえだろうか。

 他方、大阪市の感染率は東京都心より大きく下がり、福岡市と大差がない。名古屋市は全国平均さえ下回っている。

 また京都市や沖縄県、首都圏でいえば成田市周辺や浦安市など、1月に外国人観光客が大量に訪れた地域で、感染が拡大しなかったことも注目される。

 これらの状況から読み取れることが二つある。

 まず、観光客が感染を拡大させたのではなかったこと。国立感染症研究所が4月27日に発表したウイルスのゲノム解析のリポートでも明らかだが、中国人観光客のもたらした第1波は、2月中にクラスター対策で制圧された。

 第二に、飛行機や通勤電車など公共交通機関の中では、感染は広がらないこと。満員電車で感染が広まるのなら、乗車時間の長い埼玉県や千葉県の感染率が、自粛の前にもっと高くなっていないとつじつまが合わない。乗員や空港・駅の勤務者のクラスターも発生していない。

(注)可住地面積:総面積から山林や湖沼を除いた面積(農地は含む) (出所)筆者作成
(注)可住地面積:総面積から山林や湖沼を除いた面積(農地は含む) (出所)筆者作成

窓開かない超高層ビル

 上記リポートにもあるが、3月中旬から急拡大した感染の第2波をもたらしたのは、欧米からの日本人帰国者だった。中国から欧米に伝わって変異したウイルスが、帰国した駐在員や旅行者などにより国内に持ち込まれたのだ。駐在員でも、地方に本社を構えることが多いメーカーの人たちは、帰国後2週間程度の厳格な隔離を2月時点ですでに行っていた。

 しかし、東京都心に本社が集中する非メーカー系大手企業には管理が甘い会社もあり、世田谷区や港区など住宅価格の高い地域に感染者が顕著に発生したのだ。

 また、ウイルスからみても、都心には郊外に比べて感染を広げるチャンスが多かっただろう。窓の開かない超高層オフィスやタワーマンションが林立している。身体的接触が欧米人に比べて控えめな日本人も、オフィスではお互いに顔を近づけて会話しがちだ。夜の歓楽街でも、お互いの息がかかる距離で会話が行われる。銀座や新宿(東京都)、北新地(大阪市)、天神(福岡市)などで遊んだ人たちが感染を広げてしまった。

 コロナ禍に伴い緊急避難的に在宅勤務が広がった。業種・職種によって濃淡はあるだろうが、ICT(情報通信技術)を活用すれば、職場に出勤しなくても仕事をこなすことが可能だと実感できた。コロナが終息しても、出社は1週間に3回程度、状況に応じてピーク時間帯を外すといった通勤スタイルがある程度容認されるだろう。そうなれば、通勤時間が長い郊外に住宅を購入することも選択しやすくなる。あるいは地方に住んで、必要時にだけ上京してもよい。

ウグイスの鳴き声で目覚め

 私事になるが、緊急事態宣言で自宅待機している中、川崎市麻生区に住む義母が、コロナではないが体調を崩したので見舞いに通った。丘の上にある義母の自宅の周辺には里山がたくさん残っていて、市民農園で栽培された野菜を手に入れることができる。東京都心(新宿)から電車で30分かからないのに、豊かな自然の横で暮らせるのだ。

 2011年の東日本大震災以降、都心のタワマンに住むことが「勝ち組」の象徴とみなされるという、筆者には理解しがたい風潮があった。タワマンの部屋を購入すれば、資産価値は下がらないので経済合理性があるというのだが、本当だろうか。自然から隔絶され、災害に脆弱(ぜいじゃく)なタワマンに住むのも個人の自由だが、リスク感覚に乏しすぎるし、そもそも生活者としてバッドテイスト(悪趣味)だ。

 だが、そういう意識は、偏差値の高い大学に進学し、知名度の高い大企業に就職することが幸せであるという、人生90年時代にまったく適合しない価値観と同様、身も蓋(ふた)もない承認欲求に根差すものだけに、問題の根は深い。

 ウグイスの鳴き声で目覚めて、近隣の農家から野菜を分けてもらえるライフスタイルを選ぶことは難しいことではない。在宅勤務が定着し、郊外や地方に住宅を購入する選択肢が見直されることで、時代遅れの価値観を再考するきっかけになると期待している。

(藻谷浩介・日本総合研究所調査部主席研究員)

(本誌初出 東京都心リスク 突出して高い23区の感染率 在宅勤務で、郊外が選択肢に=藻谷浩介 2020・6・30)

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