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経済・企業 コロナと行政とデジタル

広島県の湯崎知事が提唱する「積極的コロナ封じ込め戦略」と行政の「デジタル化」=編集部

CEATECで広島県のデジタル化の取り組みをプレゼンする湯崎英彦・広島県知事
CEATECで広島県のデジタル化の取り組みをプレゼンする湯崎英彦・広島県知事

 コロナによる感染爆発を恐れ、自粛と休業を繰り返せば経済の本格回復など見込めない。失業者や自殺者も増え、人々の不満が爆発する事態も懸念される。では、どうすれば感染拡大防止と経済社会活動の両立を達成できるか。

 広島県の湯崎英彦知事ら14県の知事と経済界、医学界など114人の識者は6月18日、「積極的感染防止戦略による経済社会活動の正常化に向けた緊急提言」を発表した。

 提言では、冬までに日本全国で1日20万件の検査・医療体制を実現し、実行状況も明確にしていくことで、第2波への備えを確立し、国民の不安を取り除いていくことを求めた。 中国地方5県で連携し、コロナ封じ込めに成功した広島県では、行政や産業のデジタル変革の動きも加速させ、「危機をチャンスに変えたい」という。湯崎知事に聞いた。

「研究開発費を削ってはならない」

--広島は自動車産業などで大きな影響が及んでいる。

■マツダによる自動車の生産調整は6月末まで続き、年間の生産は16%減少した。自動車に限らず、裾野産業はじめサプライヤーの資金不足、雇用にも過去最大規模の影響がある。

 政府系金融機関による資金繰りの支援で無利子・無担保融資を円滑に進められるよう県は支援しているが、いまカットされやすいのが研究開発費だ。しかしそれは将来の基盤。そこが削減されないよう支援していく。

--広島県は5月3日を最後に6月29日まで約2か月、コロナの新規感染者が確認されていなかった。大都市のある県でありながら、県内の累計感染者数も7月7日時点で171人にとどまっている。

■中国地方5県の試験研究機関で連携することによって、広島県が持っている能力以上の検査を行う体制を整備し、県内でクラスターが発生しても早期に感染者を発見でき、クラスターの囲い込みに大きく役立った。医療従事者の相互派遣や、患者の相互受け入れも中国地方全体でやってきた。

冬までに1日20万人の検査体制

――6月18日に14県の知事や各界の識者を集め緊急提言を行った。狙いは

■第2波に備え、9月末までに日本全国で1日10万件、11月末までに20万件の検査ができる体制を目指す必要がある。

 インフルエンザのピーク時には1日10万~30万人の患者が発生する。このため、時間軸を持った具体的な目標を明確にする積極的な感染防止戦略をとっていく必要があると提言した。(提言内容はこちら

 感染者を早く発見し、治療していくトータルのシステムをつくるべきだ。これまでの感染拡大防止策は、外出自粛と休業要請だったが、それだと経済と両立しない。

 これからは、経済と両立する感染拡大防止策をとっていく必要がある。そのために必要な施設整備、設備の増強、人材育成の目安となる数値などを明確にし、医療以外の方々も含めて国内外から人材や資源を集める仕組みも明記した検査と医療の増強計画を公表し、その実行状況も透明化していくべきだ。これらの取り組みで人々の不安が軽減できると考えている。

――国の10万円の特別定額給付金では、オンライン申請が混乱した。行政のデジタル化が課題に浮かび上がった。

■広島県も一つ一つの行政手続きを棚卸してデジタル化していく。地味で派手さはなくてもやらないといけない。今回のコロナ禍では行政も企業もリモートワーク、非接触が強く意識されるようになった。電子申請やデータの公表をもっとオープンにしていくチャンスでもある。県は企業のデジタル化も後押しする。

「今こそデジタル変革のチャンス」と語る広島県の湯崎英彦知事
「今こそデジタル変革のチャンス」と語る広島県の湯崎英彦知事

――具体的な取り組みは

■県庁の行政手続きのオンライン化や県が保有するデータのオープン化だけでなく、道路のメンテナンスや防災でもデジタル技術を駆使した試みを進めていく。

 例えば県内には法面のある道路の総延長が1140キロと県の道路の約3割を占める。法面の岩盤崩落の前兆を画像センサーで把握できないか、輸送業者などと連携し、データ収集や解析を検討している。道路状況そのものを画像や車両データで解析し、路面陥没や維持補修コストの低減などにも役立てていきたい。

センサーで法面の崩落の前兆をつかむ新しい試みにチャレンジする広島県(広島県提供)
センサーで法面の崩落の前兆をつかむ新しい試みにチャレンジする広島県(広島県提供)

AIで移住相談

--デジタル化の流れは加速していくか。

■デジタル化の重要性はコロナで大きく浮き彫りになった。テレワークの導入を躊躇していた企業も導入が進んだ。10年かかる変革を3年でやり切るチャンスではないか。

 広島県は2018年から20年までの3年間でデジタル技術を活用して,地域の課題を解決する「ひろしまサンドボックス」という企業の実証試験を後押しする取り組みを進めている。この流れを加速させていきたい。(ひろしまサンドボックスの概要はこちら)

 広島県には、自動車から食品、農産物に至るまで人間が暮らしていくうえでリアルに必要な製造業や産品がある。ここにデジタルを組み合わせ、いかに付加価値を高めて、コストを下げていくか。我々には世界的な有名企業にも勝てるチャンスがあると考えている。

 広島県は、都会のような過密さと、田舎のような過疎が同居する魅力がある。いま世界はそういう環境を求めており、デジタルはその密と疎の同居を可能にするのではないか。 

 広島県の移住相談窓口で培ったノウハウをAI(人工知能)に投入し、LINEを活用してAIが移住相談に乗るというユニークなシステムも構築している。これもデジタル変革の一つの試みだ。

(週刊エコノミストOnline編集部)

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