セブン&アイのオムニチャネル戦略はなぜコロナ下で強みを発揮しているのか=鈴木康弘
セブン&アイ・ホールディングスでオムニチャネル戦略を推進し、現在は独立系コンサルタントを経営する鈴木康弘氏は、今年4月に発足した「日本オムニチャネル協会」の会長を務める。会の狙いや戦略を聞いた。
(聞き手=稲留正英/種市房子・編集部)
── なぜ、今、オムニチャネルが重要なのか。
■今日の消費者は、実店舗、電子商取引(EC)、宅配など複数の手段を使って商品やサービスを購入する。事業者としては、「実店舗で商品を見て、荷物が重いので、宅配を頼む」「オンラインで注文し、仕事帰りに店舗で受け取る」というように多様な(オムニ)販路(チャネル)を組み合わせた販売機会を作ることが重要になってくる。オムニチャネルという言葉は2010年に米大手百貨店メーシーズが使い出して、日本には13〜14年に入ってきた。私が以前CIO(最高情報責任者)を務めていたセブン&アイ・ホールディングスも15年に導入した。同様に、多くの小売業がオムニチャネルに取り組んだが、売り上げが劇的に増えるわけではないとして、日本では下火になっていた。しかし、米ウォルマートは、コロナ前から導入していたピックアップサービス(オンライン注文した品物を駐車場で車のトランクへ引き渡す)などのオムニチャネル戦略が奏功し売り上げ・利益とも伸ばしている。
── 会の活動は。
■店舗・拠点を持つ事業者が、デジタル変革の波を活用して新しい顧客体験を創造・進化させることを目的に今年4月に発足させた。小売り、外食産業のほか、システム会社も会員に入っている。小売り・外食産業側とシステム会社側が、双方の事情を知ってより良い仕組みを構築するため、また同業者内でもアイデアを出し合う場とするために、会を設立した。事業とシステム双方の知見を持つ人材を育てるのも目的の一つだ。
── 日本企業がオムニチャネルを導入するに当たっての課題は。
■物流や組織構成など多岐にわたる。物流で言えば、リアルの売り場中心に在庫管理をしていることだ。コロナの影響で、一定量がECに流れた小売業者もいた。しかし、売り場用とECの在庫を別管理し、かつECの在庫が薄かったため、せっかくのEC需要増に対応できなかったケースもあったと聞く。組織で言えば、販促をデジタル化して実店舗に集客できた時に、販促、売り場どちらの部署を評価するべきか、実店舗の店員が勧めた商品がECで売れた場合、売り上げは実店舗・ECどちらに計上するべきか、こうした点が縦割りになりがちだ。
── 対策は。
■ネットファーストでビジネス設計をしていくことだろう。これまでは、実店舗ビジネスから発想をスタートして、オンラインを付け足してきた「リアル+ネット」だった。しかし、コロナ後は、非接触対応が求められ、実店舗・アナログ起点の発想では行き詰まってしまう。今後は、実店舗とオンラインをいかに融合していくかという「リアル×ネット」のビジネス設計が必要だ。そのためには、システムを自社開発する必要はないが、社内にデジタルを理解できるエンジニアを置くのは必要だ。望ましいのは、CEO(最高経営責任者)がCDO(最高デジタル責任者)としての役割を果たせるぐらい、デジタルへの知見を持つことだ。
コンビニは立地が強み
── 以前所属していたコンビニ業界は、コロナでどのような影響が出ると予測するか。
■コンビニは元々、各戸に近いという立地の良さが売り物だった。仕事帰りに気軽に買い物できる便利さや、夜でも明かりがともっている街の安心安全拠点という役割は今後もあるだろう。一方で、ちょっとビールが足りなくなったので配達してほしいという需要にも応えられる。元々、コンビニはサザエさんの「三河屋」のような酒店や米店からの転換も多く、各戸に近い好立地から即配達できるのは強みだ。
(鈴木康弘・日本オムニチャネル協会会長(デジタルシフトウェーブ社長))
(本誌初出 インタビュー 鈴木康弘 ネット起点に、実店舗を運営 発想の180度転換を 20200714)
■人物略歴
すずき・やすひろ
1965年生まれ。富士通、ソフトバンクを経て、99年にネット書籍販売会社「イー・ショッピング・ブックス」(現セブンネットショッピング)を設立。同社は2006年にセブン&アイ・ホールディングス傘下に。同社執行役・CIO(最高情報責任者)などを経て17年にデジタルシフトウェーブを設立し、社長に就任。