上昇を続ける金価格 米雇用改善でも先行き不透明感 年内1900ドルへ上昇シナリオ=小菅努
ニューヨーク金先物相場は7月に入り、1トロイオンス=1800ドルの節目を突破し、2011年9月以来の高値を更新した。米国株は高値圏で推移し、投資家の恐怖心理を指数化した「ボラティリティー指数(VIX指数)」はピーク時(82・6=3月16日)を大幅に下回り、30ポイントを割り込む。投資環境の安定化が進んでいる中でも、一般に「有事の安全資産」と言われる金が買われているのは、「現状の株高は異常」との投資家の恐怖心理を反映したものだ。
7月2日に発表された6月米雇用統計では、失業率が前月の13・3%から11・1%まで低下した。非農業部門就業者数も前月比480万人増と急増しており、経済活動の再開が労働市場の改善を促し始めていることが示された。株式市場ではこうした良好な統計が素直に好感されているが、金市場では根強い先行き不透明感が警戒されて、買いが優勢となっている。
リーマン・ショック(08年)時を振り返っても、失業率がピークアウトした後も金価格は長期にわたって上昇を続けており、今回も同様のマーケット環境が想定されよう。今後の金相場を占う要素は、実質金利、マネーサプライ、財政赤字、米中関係に代表される地政学リスクなど多岐にわたるが、本稿では失業率と株価に注目してみたい。
株式市場では、経済が正常化に向かっていることが高く評価されており、投資家のリスク選好の強さが目立つ。しかし実際には、失業率はV字型回復に向かわず、長期間、厳しい状態が続く可能性が高い。6月の失業率は低下したといっても依然、2ケタ台であり、しかも足元では再びコロナ感染被害が猛威を振るっている。新規失業保険申請件数も高止まりしている。
リスクヘッジの需要
本来であれば株式などリスク資産価格に対しては、より慎重であるべき環境にもかかわらず、投資家のリスク選好が高まり続けていることが、一方で金投資によるリスクヘッジのニーズを高めている。国際通貨基金(IMF)も6月に公表した「国際金融安定性報告書」改訂版において、金融市場と実体経済との間に過去最大規模の乖離(かいり)が生じていることに警告を発している。
こうしてみると、失業率が低下しても、安全資産としての金に対する投資ニーズが後退することはなく、雇用環境が本当の意味で正常化に向かうとの確信が得られるまでは、強含みの展開が続きやすい。年内予想レンジは1トロイオンス=1750~1900ドルと予想する。新型コロナの動向次第では、年内1900~2000ドル水準まで一気に上昇する可能性もある。
ただし、株価が急落した場合、金相場は今年3月と同様に、投資家の手元資金確保のために売り圧力がかかり下落が警戒される。金は、一般的な理解とは正反対に「株高環境で買われやすく、株安局面で売られやすい」という値動きになりがちなのには注意を要する。
(小菅努・マーケットエッジ代表取締役)