教養・歴史

飛行機・新幹線は実は安全?! コロナ下に感染リスクの低い旅の方法を考える=二村高史(旅ライター) 【サンデー毎日】

VRゴーグルを装着して海外旅行の気分を味わう利用者ら=東京都豊島区で2020年7月3日、宮武祐希撮影
VRゴーグルを装着して海外旅行の気分を味わう利用者ら=東京都豊島区で2020年7月3日、宮武祐希撮影

夏本番を控え、例年なら夏休みの計画を立てた人が多いだろうが、今年は新型コロナが気にかかって決断しにくい。

だが、「ゴールデンウイークはステイホームを余儀なくされたので、夏こそは旅に出たい」という人は多いはず。

どんな旅が可能なのか探った。 

海外旅行の解禁は当面ムリそう・・・

まずは海外旅行が可能かどうかを探ろう。

7月上旬現在、政府は「外国への渡航は自粛か中止すべし」としており、外国政府の多くも入国条件を厳格化したまま。

渡航医学に詳しい東京医科大の濱田篤郎教授に夏休みの見通しを聞いた。

「世界的に見れば、新型コロナウイルス感染症はまだまだ拡大し続けています。ほぼ収束したといわれる地域のうち、雨期に入る東南アジアの一部では屋内で過ごすことが多くなるので再拡大する可能性があります。従来のコロナウイルスに起因する風邪は寒い季節に流行することを考えると、これから冬を迎えるオーストラリアやニュージーランドは、外国人の受け入れを再開するタイミングで流行が再び拡大の恐れがあります」 

欧州連合(EU)の欧州委員会は6月30日、EU加盟国に対して「日本など15カ国に住む人の受け入れを7月1日以降、始めるべきだ」とする方針を発表した。

実際に渡航を解禁する対象国は各加盟国が決める。

発表文には「(対象国を決める際、加盟国は)相互主義に留意すべきだ」とあり、日本人がEU加盟国に渡航できるようになるには、日本政府がEU住民の受け入れを再開する必要がある。

日本政府はオーストラリア、タイ、ニュージーランド、ベトナムの4カ国とビジネス渡航者の再開を協議しており、EUに関しては未定だ。

「旅先で感染するリスクを考えると、残念ながらこの夏の海外旅行はお勧めできません」(濱田氏) 

「自家用車でキャンプ場直行」なら安全?

結局、夏の目的地は国内にするのが現実的だろう。 

国内旅行の移動手段として、感染するリスクが低い自家用車を選ぶ人が多そうだ。

では、高速道路の混雑はどうなるのか。

『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社)などの著者で、交通ジャーナリストの清水草一氏に聞いた。

「6月上旬現在、高速道路の利用状況は、平日は前年比1割減、休日は同3割減。この状態が夏までに回復するとは考えにくい。夏休み期間中は例年の2割減と予想できます。1割減でも空いたと感じるもので、2割減ならスイスイ走れるイメージです。少なくとも、例年の夏休みのような大混雑にはならないと思います」 

自家用車で移動し、大自然の中でキャンプをすれば、感染するリスクは限りなく低そうだ。

ただし、キャンプができる場所は限られており、人気の場所は利用者が密集しかねない。 

むしろ、コロナ禍で疲れた心を癒やすのに温泉はどうだろうか。

リハビリテーション医学が専門で、温泉の効用に詳しい国際医療福祉大大学院の前田眞治教授によれば、温泉にはリラックス効果だけでなく、ウイルスから体を防御する免疫細胞を活性化させる効果があるという。

「湯温41度の温泉に15分間入ると深部体温は1・4度上昇し、リンパ球に含まれる免疫細胞の一つであるNK(ナチュラルキラー)細胞が活性化することが確認されています。一方、温泉の湯を通じてウイルスに感染する心配はありません。夏場なら十分に換気されているでしょうし、浴場の空気は対流します。互いに一定の距離を保って入浴すれば、安全といって差し支えありません」 

感染のリスクを考えるなら、大きな温泉宿よりも客数の限られたひなびた温泉がいいだろう。たとえば、「日本秘湯を守る会」のウェブサイト(*)を調べれば、雰囲気のいい小規模な温泉宿が全国約160軒載っており、自宅から遠くない場所に見つかるはずだ。

「飛行機と新幹線」は感染リスクが低い?

「飛行機や新幹線は密室なので感染が気になる」という人もいるだろう。航空会社の広報に聞いてみた。

「機内の空気は、上空のきれいな空気を大量に取り込みながら循環し、約3分で全て入れ替わります。循環する空気は、手術室でも使用されている『ヘパフィルター』で濾過した上で、客室内に再び供給されるので安全です」(日本航空)

「安心して利用できるように、テーブルや肘掛けなどを、国際線は毎便、国内線は毎晩、アルコールで消毒しています。より安心して利用できるよう、6月中旬からは必要な方にアルコールシートを提供しています」(全日空) 

業界団体の国際航空運送協会によれば、今年1〜3月の期間中、新型コロナに感染した乗客と同じ飛行機に搭乗した10万人超の乗客を調査したところ、2次感染は見られなかった。

この結果を受けて、同協会は「機内では感染リスクは低い」と発表している。

機内ではマスクを着用する必要があるが、日常生活とほぼ同じ感染予防をすれば利用できる。 

これなら北海道や沖縄にも安心して出かけられそうだ。

北海道旅行の目玉は白老町に7月12日にオープンする予定の「民族共生象徴空間ウポポイ」だろう。アイヌ文化の復興を目指す国立の施設。アイヌに関する施設としては、これまでにない規模と内容だという。 

鉄道が好きな人は廃止が取りざたされている路線に乗っておきたい。JR北海道の赤字が続く留萌本線(深川駅―留萌駅)、それに北海道新幹線が札幌駅まで延伸すると廃止されるかもしれない函館本線の長万部駅―小樽駅だ。北海道ならではの沿線風景と駅の様子を味わうなら今のうちだ。 

JR各社によれば、窓が開かない新幹線や在来線特急の車両は、車内の空気を外気と入れ替えて循環させているという。

新幹線の車両は6〜8分で車内の空気が全て入れ替わる。もちろん定期的に消毒している。

今新幹線や在来線特急の車両に乗ると、車掌が巡回するたびにドアノブなどを消毒する光景が見られるだろう。

ポスト・コロナの「新しい旅のスタイル」を考える 

世界中の人が新型コロナを気にするようになり、旅のスタイルは大きく変わるだろう。人々は今まで旅行関連業者やメディアが仕掛けた流行に合わせ、特定の観光地にどっと訪れる傾向があった。

だが、人々が密集を避けるようになり、自ら「旅のテーマ」を考えるようになるのではないか。 

能書きはこのくらいにしよう。新しい旅のスタイルとして、私が提案したいのは岩手県陸前高田市への旅だ。

東日本大震災の大津波で甚大な被害を受けた町であり、これまでは津波の後も残った「奇跡の一本松」を見るだけで帰る人が多かった。だが、それだけではもったいない。

現在、津波に備えてかさ上げされた旧市街地では新しい街づくりが進み、ショッピングモール、飲食店、土産物店が増えてきた。2、3日ほど滞在して、東日本大震災津波伝承館などの施設と合わせ、それらの店を巡ると楽しい。真っ白なキャンバスに絵を描くような街づくりをリアルタイムで目撃できるのだ。 

真新しいカフェに行けば、若い人たちが集まって将来の街について話し合っている場面に出くわすかもしれない。居心地のよい店が多く、町の人はにこやかに接してくれる。昨年、同市を訪れた時、ある人から聞いた言葉が印象的だった。

「あの災害とその後の避難生活を体験し、この町の人はみな、自分一人では生きていけないことを身にしみて味わったんです」 

そんな人々に接すれば、コロナにおびえて落ち込んではいられないという気になるに違いない。被災地を巡る旅は「旅行する側が元気をもらえる旅」と気づくのではないか。

海の幸、山の幸にも恵まれており、夏は岩ガキやウニのシーズンでもある。

帰りがけに古い民家や蔵の町並みがある住田町世田米は、訪れる価値がある。さらに時間があれば、三陸海岸を北上して釡石市、山田町、宮古市を通って青森県八戸市まで抜けるコースをお勧めしたい。クルマでなくても、バス高速輸送システム(BRT)、三陸鉄道、JR八戸線に乗って移動し、復興の様子を自分の目で見るのだ。

「自分の支払ったお金が少しでも復興の手助けになる」と考えれば、旅に出たかいがある。

その土地に住むように旅をする 

感染症の拡大によって、人口が密集する大都市の短所が見えてきた。これからは地方都市の価値が見直されるのではないか。

もっとも、いきなり移住するのは難しい。そこで提案したいのが、その土地に住むような旅をすることである。その町の住人になったつもりで商店街をぶらぶらし、喫茶店でのんびりし、気分が乗ったら遠出をするという旅のスタイルだ。

日本各地でそんな旅をバックアップする施設や町が徐々に増えている。 徳島県西部にある三好市は四国のほぼ中央部に位置する。同市の中心となる阿波池田駅(旧池田町)付近は、鉄道や高速道路が各地に向かう交通の要衝だ。大阪市や神戸市からは淡路島経由の高速道路で3時間弱。高速バスも運行されている。新幹線を使うなら、新大阪駅から岡山駅で乗り換えて2時間半ほどの近さだ。 

町内には刻みたばこの生産で栄えた町並みが残る。少し足を延ばせば、渓谷美を誇る大歩危、険しい山の斜面に集落が点在する落人伝説の祖い谷や渓、藍染めで繁栄した脇町の町並み、さらには土ど讃さん線の秘境駅であるスイッチバックの坪尻駅。観光資源は枚挙にいとまがない。 

JR四国が運営する宿泊施設「4S STAY」は、阿波池田駅前の商店街でかつて営業していたすし店と、中心部にある築120年以上の町家をそれぞれ修復した簡易宿泊所。朝起きたら近所で朝食を取り、ちょっとしたお出かけ気分で付近の観光ポイントに出かけるなんて、ぜいたくな一時ではないか。疲れた日は商店街でランチを食べ、店の人とおしゃべりをしたら、宿に帰って昼寝してもいい。 

言ってみれば、リゾートホテルの正反対である。リゾートホテルは宿泊から食事、遊びまで施設内で全てが完結するよう利用者を囲い込む。便利だが、地元の文化や歴史は味わえない。奇くしくもインバウンドの観光客が教えてくれたように、日本の地方には数限りない観光資源がある。

阿波池田は一つの例にすぎない。国内にもう一度目を向けて、そんな価値を見いだす旅をしてはいかがだろうか。 

秋冬になるとよりコロナの流行が広がると指摘する専門家がいる。多くの人が遠出に二の足を踏んでいる今年の夏は、旅の狙い目だ。予備のマスクと除菌ウエットティッシュをバッグに入れて、旅に出ようではないか。

ふたむら・たかし 1956年生まれ。東京大文学部卒。塾講師、パソコン解説書執筆、日本語教師などを経てフリーランスの物書きに。小学生時代から鉄道の乗り歩きや町歩きに目覚め、シベリア鉄道には3度乗車。『定点写真でめぐる東京と日本の町並み』(青春出版社)、『鉄道黄金時代1970's』(日経BP社)などの著書がある

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