インターネット上の嫌韓・嫌中ネタに食いついてしまうのはなぜか 哲学者はこう考える
Q 若者が、中国や韓国の悪い情報に目を留めるのが、気になります
A 「フィルターバブル」の回避に、偏った検索をやめよう
最近職場の若い人たちが、中国や韓国に関する悪い情報をやたらと口にするので、不思議に思っていました。なぜなら、私はそういう情報をあまり知りません。ところが、彼らに言わせると、インターネットにたくさん出ているというのです。そういう情報ばかりに目が留まるというのは、やはり悪い情報を容認しがちという意識の問題でしょうか。
(製造業管理職・50代)
本人の意識もあると思います。最近の政治的な出来事がきっかけで、中国や韓国に反感を持つことが背景になっているのでしょう。ただ、それは本来一過性のものであるはず。そこにインターネット特有の性質が絡んで、根深い問題になってしまったと思います。
若い人の場合、ネットで情報を入手することが日常茶飯事です。そうして一時期、集中的に、ある特定の分野の情報や特定の論調の情報にアクセスすると、今度はネットの方がそれを認識して、そこに“閉じこめてしまう”のです。
『閉じこもるインターネット』の著者イーライ・パリサーは、この問題を「フィルターバブル」と呼んで警鐘を鳴らしています。つまり、ネットを使えば使うほど、その人の情報はネット上に蓄積・把握され、その人の求めるであろう情報が推測のもと、表示されるようになってくるのです。
蓄積される個人情報を警戒
皆さんもネットで買い物をする際、一度検索した商品の広告がお勧め情報として出てくるのを経験したことがあると思います。でもこれは商品に限らず、いかなる情報に関しても同じことが起こっているのです。商品ではないため気づかないことが多いですが、本当はどの情報も私たちの検索履歴から好みや傾向を把握し、お勧め情報を流しているのです。
パリサーは、こうしたフィルターバブルが意識されないものであるがゆえに、知らないうちに私たち一人ひとりを偏った情報の中に孤立させることになると指摘しています。これが「閉じこもる」ということの意味なのです。
職場の若い人たちも、あまり意識しないうちに偏った情報の中に閉じこめられているのかもしれません。いや、実は誰もがその状況に置かれているのです。そこでパリサーは、自ら意識して行動パターンを変えるべきだと主張しています。いつもと違う情報をあえて検索してみるとか、インターネットブラウザーのユーザーなどを特定するために使われるクッキーを定期的に削除するとか。職場の人たちにもそうした行動を勧めてみてはいかがでしょうか。
(イラスト:いご昭二)
(本誌初出 若者が、中国や韓国の悪い情報に目を留めるのが、気になります/42 20200804)
イーライ・パリサー(1980年~)。アメリカの作家。テクノロジーが民主主義に与える影響について論じている。活動家として市民政治団体でも活躍している。著書に『閉じこもるインターネット』(文庫版の書名は『フィルターバブル』)がある。
【お勧めの本】
イーライ・パリサー著『閉じこもるインターネット』(早川書房)
インターネットの問題点や対処法がよくわかる
読者から小川先生に質問大募集 eメール:eco-mail@mainichi.co.jp
■人物略歴
おがわ・ひとし
1970年京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部教授(公共哲学)。20代後半の4年半のひきこもり生活がきっかけで、哲学を学び克服。この体験から、「疑い、自分の頭で考える」実践的哲学を勧めている。