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中国共産党の支配強化によって香港から流出する資金の行き先は「あの国」だった=立沢賢一
香港の金融センター機能を日本が代替する可能性はあるのか?
2020年6月5日に中央銀行にあたるシンガポール金融通貨庁(MAS)の発表によると、4月の銀行の非居住者預金残高は、前年同月比44%増の620億シンガポールドル(約4兆7000億円相当)になりました。これは1991年以降で最も多い増加額です。
これを見る限り、香港からシンガポールへの大量の資金移転を反映している可能性が高そうです。
シンガポールへの資産移転の動きを受けて、UBS、クレディ・スイス、ジュリアス・ベアなどのプライベートバンク各社は、中国や香港の顧客を対象としたオフショア資産運用担当者の増員を計画している、とロイターが報じています。その多くがシンガポールを拠点としたポストだといわれています。
さらに、ヘッジファンド、プライベート・エクイティなども、香港国家安全維持法をきっかけに、資産をシンガポールにシフトしているとのことです。
残念ながら日本が、香港から海外金融機関や人材を誘致できる可能性はかなり小さいと言わざるを得ません。
シンガポールと比較すると、言葉と税制の問題が、日本の国際金融センターとしての競争力をかなり劣ったものにしています。
特に、中国ビジネスという観点からは、英語と中国語の両方が通用するシンガポールに比べて、共に話す人が限られる日本の劣位は明確です。
また、法人税、個人所得税においても、シンガポールの法人税率は17%、個人所得税率は最高税率22%と、シンガポールの税金の水準は日本よりもかなり低く、この面でも香港からの金融機関や人材がシンガポールに移ることは避けられないでしょう。
結局、香港の一般企業、金融機関や個人は、これから中国に従うか、それとも香港から脱出するかの二択を迫られることになると思われます。
香港の人口750万人のうち、半数程度は香港から離れることを余儀無くされる可能性すらありえます。
香港は、モノとカネによって中国と世界をつなぐ重要なゲートウェイでしたが、最悪その役割を失うことになるのです。
立沢賢一(たつざわ・けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。
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