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先行する中国のデジタル人民元に危機感? 「日銀がデジタル通貨に本腰」の衝撃

欧米各国との連携を重視(日銀本店) (Bloomberg)
欧米各国との連携を重視(日銀本店) (Bloomberg)

 中央銀行によるデジタル通貨の検討に、日本も「本腰」を入れ始めた。政府は7月17日に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」で「日本銀行において技術的な検証を狙いとした実証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」と明記。日銀は7月20日、課題などの検討を進めるため、担当の専門組織「デジタル通貨グループ」を決済機構局内に新設した。

 新グループは10人程度とし、日銀が2月に発足させた研究チームを格上げする形で発足。グループ長には奥野聡雄審議役が就いた。日銀は「直ちに中央銀行のデジタル通貨を発行する予定はない」(黒田東彦総裁の6月11日の国会答弁)との立場。一方で1月から欧州中央銀行(ECB)を含む5中銀などと中銀デジタル通貨の共同研究も始めており、具体化に備えた研究を新グループで担う。

「検討本腰」を内外にアピールする背景には、デジタルマネーを巡る世界の競争がさらに激化していることがある。米フェイスブックが昨年6月に計画を公表したデジタル通貨「リブラ」の構想は、主要20カ国・地域(G20)が「深刻なリスクがある」として当面発行を認めない方向で一致したが、各国当局が危機感を抱き、中銀デジタル通貨の検討も加速するきっかけとなった。そんな中で中国人民銀行は今年4月、「デジタル人民元」の実証実験を4都市で開始。基軸通貨ドルを持つ米国も危機感を募らせ、これまで中銀デジタル通貨の検討に慎重だった米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は6月17日の米下院金融サービス委員会で「真剣に研究していく案件の一つ」と語るようになった。

 先行する中国への警戒感が欧米で高まる中、日本も足並みをそろえる形で検討本格化を打ち出した格好だ。

 ただ、中銀デジタル通貨の発行までには技術面だけでなく、銀行の預金や資金仲介への影響など、広範な論点が残されている。多くの中銀が調査研究や実験を進めるが、現時点で正式発行に踏み切った中銀はまだない。発行の是非の判断も含めて道のりは容易ではなさそうだ。

民間との相乗効果

 もっとも、コロナ禍によって経済のデジタル化は一段と加速。デジタル通貨を巡る民間の検討も活発になっている。銀行間決済を担うネットワーク(全銀システム)を運営する全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)は5月、作業部会を新設し、資金移動業者への全銀システムの開放などについて議論を始めた。6月には、3メガバンクやJR東日本、NTTグループなどが参加する民間ベースの「デジタル通貨勉強会」も発足した。

 デジタル通貨勉強会の座長を務める前日銀決済機構局長の山岡浩巳・フューチャー取締役は「民間の取り組みと、日銀による検討とが相乗効果を生み、日本の金融インフラが世界をリードし、経済のデジタルイノベーションを支えるものとなることを期待したい」としている。

(編集部)

(本誌初出 中央銀行デジタル通貨 日銀が新組織設立で「本腰」 中国先行で募る危機感=編集部 20200818)

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