日本人はなぜ日本型経営を評価しないのか(小林よしのり)
リモートワーク・テレワークがコロナ後の働き方だそうだ。
時事通信が5月に実施した「労働に関する世論調査」では、感染の終息後もテレワークを「拡大すべきだ」との回答が7割だという。
マスコミはこの変化を歓迎している。
ある経済ジャーナリストによれば、「完全なリモートワークが可能なのに、いまだにできていない企業は将来を見通せない企業となる可能性がある」だそうだ。
赤字に転じた企業が、交通費も残業代も要らないからリモートでいいと考え、社員が出勤しないなら事務所も要らないということになり、とことん経費削減に励んでいる。
管理者がパソコンの画面に映った社員全員を監視し、社員の交際がないから、人柄や協調性は評価の対象ではなくなり、ひたすら成果主義が重んじられる。
個人主義が徹底して、チームワークという集団性は要らなくなった。
画面越しの知り合いなので、愛社精神は要らない。
社員に忠誠心はないし、経営者に社員に対する責任や情も育たない。
リストラするのに全く躊躇(ちゅうちょ)も要らなくなるから、経営者にとっては得なのかもしれない。
だがほとんどの日本人には欧米人のような個人主義はない。
欧米人は狩猟民族だが、日本人は農耕民族なので、日本人が最も力を発揮するのは集団性を生かすときである。
経営者がコロナ禍という非常事態につけ込み、ショックドクトリン(大惨事便乗型資本主義)でリモートワークを導入し、ついに労働者は砂粒の個に分断されてしまった。
格差拡大がさらに加速するのがコロナ後の日本だろうか。
日本人ならば、集団性を生かす日本型経営を再認識することが、日本人を幸福にする経世済民のあり方のはずである。
(小林よしのり・漫画家)
(本誌初出 20201208)
本欄は、池谷裕二(脳研究者)、片山杜秀(評論家)、小林よしのり(漫画家)、古賀茂明(元経済産業省官僚)の4氏が交代で執筆します。