経済・企業

コロナ禍で利益が5倍に伸びた世界最大のマレーシアの医療用手袋メーカー、非正規の工場労働者に感染者続出で操業が大ピンチ!

    医療用手袋ならマレーシア(トップグローブのサイトより)
    医療用手袋ならマレーシア(トップグローブのサイトより)

     新型コロナウイルスの感染防止で世界中で需要が高まっている医療用手袋。マレーシアの最大手メーカーは11月25日、出稼ぎ従業員に大量のコロナ感染者が出たため、国内の47カ所の工場のうち、20カ所を操業停止にすると発表をした。感染拡大が続く中、一段の手袋不足に拍車がかかりそうだ。

     マレーシアのトップ・グローブは世界最大のゴム手袋メーカーだ。新型コロナウイルスの感染拡大で、医療用手袋の需要が増大した。通常の何倍もの手袋が必要になり、世界的に手袋が不足する事態に陥った。トップ・グローブには注文が殺到し、2020年8月期(速報ベース)の売上高は前期の1・5倍、営業利益と純利益はそれぞれ5倍に膨らんだ。

     収益拡大を受け同社の株価は急上昇し、マレーシア証券取引所上場企業で時価総額1位のマラヤン・バンキング(銀行業)に追い付く勢いだ(10月7日現在)。

     トップ・グローブは1991年7月に設立された。創業者のリム・ウィー・チャイ氏は現会長で筆頭株主。同社はゴム手袋メーカーとして先行していたわけではないが、04年にゴム手袋で世界最大手となった。株式は01年3月にマレーシア証取、16年6月にシンガポール証取にそれぞれ上場した。

    ゴム手袋で世界1位

     マレーシアはゴム手袋の世界シェア65%を誇る。同国は天然ゴムの原産地だが、最近は生産量が減少。これには工業製品生産を重視する政府の政策が影響しているようだ。トップ・グローブのゴム手袋の世界シェアは26%(20年)。製品は原材料により、天然ゴム手袋と合成ゴムのニトリル手袋があり、用途によって、検査用、手術用、家庭用、工業用、クリーンルーム用などが作られている。

     トップ・グローブは従来、天然ゴム手袋が中心だったが、近年は機能性の高いニトリル手袋へのシフトを進めてきた。11年の販売数量は天然ゴム手袋が全体の8割、ニトリル手袋は1割だったが、19年には天然ゴム手袋が5割弱、ニトリル手袋は4割を超えた。金額ベースでは、同年にニトリル手袋の売上高が天然ゴム手袋を上回った。

     20年もニトリル手袋の売上高の伸びが大きく、両者の売上高の差は開いていると推定される。天然ゴム手袋および手術用手袋では以前から世界一だったが、20年6月にニトリル手袋でもトップに立った模様だ。さらに、現在増設中の生産設備は、ほとんどがニトリル手袋用である。手袋以外の製品も手掛けているが、売上高の規模は大きくはないようだ。

     同社では14年以降、世界の手袋需要の伸びとともに、売上高の成長が加速した。コロナ禍で感染防止対策が広がり、20年8月期には下半期に売上高が急増し、前年同期比51%増の72億3600万リンギット(約1800億円)を達成。販売数量の伸びと同時に平均販売価格も上昇したことが、大幅な増収の主因だ。

     売上高は大部分が海外であり、製品は世界195カ国に輸出されている。手袋需要は医療基準、衛生基準が厳格な先進諸国が中心で、売上高も北米と欧州が3割ずつ、残りがアジアなどである。ここ数年は、新興国での需要の高まりとともに、アジアの売上高が大きく伸びている。

    売上高利益率は32%

     同社の製造工場は46カ所で、大部分がマレーシア国内にある。20年8月期の手袋の年間生産能力は855億枚。最近4年間は既存工場の改修や新工場の建設のために設備投資を拡大し、18年には国内の手術用手袋メーカーを買収している。

     設備投資は、事業から得たキャッシュ(営業キャッシュフロー)でまかなう形ができており、有利子負債への依存は限られている。20年8月末はほぼ無借金状態だ。

     トップ・グローブの利益額は増加傾向をたどってきたが、売上高に対する粗利益、営業利益の比率はかなり変動してきた。これは、天然ゴムやナフサ(粗製ガソリン)の価格が大きく振れたためだ。また、通貨リンギットの対ドル相場の変動も影響する。

     売上高からいかに効率よく営業利益を得ているかを示す売上高営業利益率は、10年以降5~14%で推移していた。マレーシア国内の同業2番手のハルタレガの利益率はこの間徐々に下がっているが、20年3月期も20%とトップ・グローブより高かった。ハルタレガは早い時期からニトリル手袋の機能開発に注力し、生産設備の合理化、自動化も図ってきた。

     その結果、売上高ではトップ・グローブに引き離されていたが、ほぼ同程度の営業利益を確保していた。しかし、20年3~5月の第3四半期以降、トップ・グローブの売上高は急増し、営業利益も急拡大。20年8月期の売上高営業利益率は32%まで跳ね上がった。平均販売単価の上昇、単価の高いニトリル手袋の販売増加、出荷数量の増大で生産設備の稼働率がほぼ100%まで上昇したことが、利益率の上昇につながった。

     従業員は18年以降大きく増え、人件費総額も増加している。平均1人当たり人件費は19年は前年比ほぼ横ばい。売上高の伸びが大きいため、人件費増加が利益の圧迫要因にはなっていない。

    非正規労働者が7割という現実

     トップ・グローブは7月に米国の税関・国境警備局(CBP)から一部子会社製のゴム手袋の差し押さえ命令を受けた。マレーシア国内の工場における出稼ぎ労働者の劣悪な労働環境が理由とされたようだ。正規雇用以外の「契約労働者」が全従業員の7割(19年)を占めており、バングラデシュとネパールからの出稼ぎが中心だ。

     差し押さえ命令を受け、トップ・グローブは社内のほか、外部監査機関や第三者委員会による調査も進め、調査結果を公表している。監督当局や投資家、消費者へ説明し、必要な点を早急に是正できるか、工場の合理化・自動化によって出稼ぎ労働者への依存度を下げられるかが、今後も注目されるところである。

    (児玉万里子・財務アナリスト)


    生産拠点を多元化へ 国内生産に一部回帰も

     日本で使われるゴム手袋は多くが海外製である。新型コロナウイルス感染症拡大という事態においては、日本が抱えるさまざまなリスクが露見した。海外の工場所在地が封鎖されると工場の生産縮小で出荷量が大幅に減少すること、近隣諸国からの出稼ぎ労働者への依存度が高いと、現地での労働力確保が難しくなることなどだ。

     そこで日本では、「サプライチェーンの多元化」が緊急の課題となった。医療用のマスク、作業着のほか、医療用ゴム手袋も対象だ。政府は4月、アジア地域など海外を含む生産拠点の多元化に対して資金の拠出を決定。今年7月の採択事業30件には、住友ゴム工業のマレーシアのニトリル手袋工場、ショーワグローブ(兵庫県姫路市)のミャンマーの業務用手袋工場の設備投資への補助が含まれている。国内回帰としてショーワグローブはニトリル手袋の初の国内工場も建設する予定だ。

    (児玉万里子)


    企業データ

    (出所)ブルームバーグ
    (出所)ブルームバーグ

    本社所在地=マレーシア スランゴール州

    会長=リム・ウィー・チャイ(Lim Wee Chai)

    総資産=86億7200万リンギット

    純資産=63億900万リンギット

    売上高=72億3600万リンギット

    営業利益=23億5500万リンギット

    当期純利益=18億6600万リンギット

    従業員数=2万1000人

    主な上場取引所=マレーシア証券取引所、シンガポール証券取引所

    (注)数字は2020年8月期(速報ベース)

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