国際・政治

英国議会の法律を否決!ブレグジットに刺激された「スコットランドの独立運動」は成功するのか

    再び住民投票を実施する考えを示したスコットランドのスタージョン首相(中央)(Bloomberg)
    再び住民投票を実施する考えを示したスコットランドのスタージョン首相(中央)(Bloomberg)

    英国のスコットランドで独立に向けた機運が再燃している。

    独立の是非を問うた2014年9月の住民投票では反対多数となったが、英国のEU(欧州連合)離脱に伴う混乱に加え、新型コロナウイルスの流行を抑制するスコットランド自治政府の対策を住民が評価。

    自治政府のスタージョン首相は再度住民投票を実施する方針を打ち出しており、独立への支持が広がっている。

    英調査会社イプソス・モーリ社が10月14日、スコットランド住民を対象に実施した世論調査の結果を発表し、独立賛成が55%と、反対の39%を大きく上回った(「分からない」は6%)。

    他社の世論調査でも、今年に入って独立賛成が反対を上回る傾向は顕著で、特に新型コロナが感染拡大した今春以降、独立賛成が支持を伸ばしている。

    イプソス・モーリ社の世論調査ではまた、21年5月に任期満了を迎えるスコットランド議会選挙で、独立派のスコットランド国民党(SNP)が過半数を取った場合、「住民投票を実施するべきか」と質問。

    64%が「必ず」または「恐らく」するべきだと回答した一方、「絶対に」または「恐らく」するべきではないとの回答は34%にとどまった。

    スタージョン首相は今年9月、優先政策の一つとして次期スコットランド議会議員の任期である26年までに独立の是非を問う住民投票を実施する意向を発表。

    スタージョン首相が党首を務めるスコットランド議会多数派のSNPは、19年の党大会で独立後に独自通貨を採用する方針も打ち出すほか、独立国家としてEUへの加盟も見据える。

    進む保守党政権離れ

    スコットランドの独立問題は、前回住民投票が行われた14年と現在では状況が異なる。

    14年当時は財政の独立や経済発展の展望が独立運動の主な理由とされ、キャメロン首相(当時)は英国の世界的な影響力低下だけでなく、不確実性を高めるという懸念から残留呼びかけに奔走。

    世論調査では独立賛成・反対の接戦が続いたが、14年9月の住民投票の結果は賛成が44・7%、反対が55・3%となり残留が決定した。

    ただし、この時点では英国がEUの加盟国であることが大前提で、スコットランド経済・社会繁栄のために反対票を投じた住民が多かったとされる。

    この大前提を覆したのが、EU離脱の是非を問う16年の国民投票だ。

    スコットランドでは残留が多数派だったが、全体では離脱賛成が多数を占める結果となり、紆余(うよ)曲折を経た交渉の末、20年1月末には正式に離脱した。

    現在はその移行期間中だが、12月末で移行期間も切れる。

    EU加盟国としての経済・社会的利益が失われることが予想される今、英国にとどまる理由がないと考えるスコットランド住民が増えているのも妥当だろう。

    また、スコットランド議会は10月7日、英国下院が可決していた「国内市場法」を国際法違反として“否決” し、中央政府との決別路線を明確にした。

    同法は英EU離脱協定の北アイルランド国境問題に関わる取り決めをほごにする条項を含んでいた。

    今年に入って感染拡大した新型コロナも、SNPの支持拡大につながっている。

    スコットランド自治政府は公衆衛生政策の行政権限を持っており、行動制限や屋内でのマスク着用の義務化を早々に導入。

    さらに、イングランドに比べてロックダウン(都市封鎖)を緩やかに解除するなどし、スタージョン首相がリーダーシップを取った危機対策について、10月の世論調査でも72%が「満足」と回答している。

    SNPの支持率も軒並み50%を上回っており、来年5月までに実施される次回議会選では過半数が見込まれている。

    その一方、スコットランド住民の英国議会与党・保守党離れも顕著になっており、スコットランド保守党のカーロウ党首が今年7月に辞任。

    後任には英下院のロス議員が就任したが、スコットランド議会には所属していないため、現在はデビッドソン元党首が一時的に党首を務めるなど混乱した状況が続いている。

    若年層は親EU

    ロス党首は中央政府の影響下にあるとみられ、支持獲得に苦慮しているのが現状だ。

    中央政府は支持回復を図るため、スコットランドの企業に対し総額23億ポンド(約3200億円)の緊急支援を実施。

    保守党政権のスナク財務相は9月、スコットランドの雇用機会維持計画を発表したが、後手を踏む新型コロナ危機対応もあって保守党政権離れはむしろ加速している。

    さらに注目したいのが、14年に投票権のなかった若年層の勢いだ。

    14年の住民投票と16年の国民投票はスコットランドの若年層を政治化させたと言われる。

    若年層はEU離脱反対派も多く、今年10月の世論調査では16~24歳の79%、25~34歳の69%が「EUを離脱した英国から独立するという論調に説得力がある」と回答しており、EUと貿易関係を強化したほうがスコットランドの繁栄につながると考えているようだ。

    スコットランドでは1707年にイングランドに併合された後も、独立の機運は長くくすぶり続けていた。

    スコットランドの主要産業である石炭が産業革命を支えてきたが、サッチャー政権下の1980年代、国内産業改革で石炭産業が衰退。

    北海油田の開発による税収が中央政府に吸い上げられることへの不満も増幅し、10年代に入って独立論が勢いを増した。

    ただ、実際に独立への道のりは険しい。

    まず、与党・保守党の正式名称が「保守統一党」(Conservative and Unionist Party)である通り、「四つの地域の連合王国(ユニオン)」という立場は明確だ。

    ジョンソン英首相は今年1月、スタージョン首相に対し住民投票実施を正式に拒否する通達を行っている。

    また、スコットランド保守党とスコットランド労働党も、優先課題は新型コロナ対応であり住民投票ではないと批判している。

    さらに、安全保障上の問題も懸念として挙げられる。

    スコットランドの最大都市グラスゴー北西部に位置するクライド海軍基地は、核弾頭を装備したSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)「トライデント」搭載の原子力潜水艦の母港だ。

    スコットランドが独立した場合、クライド海軍基地を移動させなければならず、英国も加盟するNATO(北大西洋条約機構)の安全保障政策に影響を及ぼしかねない。

    スタージョン首相は今年11月にも、ベルギーの首都ブリュッセルでEU離脱反対とスコットランドがEUの一部であることを強調する講演を開くなど、独立とその後のEU加盟への国際的な支持取り付けにも積極的に動いていた。

    しかし、EUが非EU加盟国での独立運動そのものに介入するとは考えられず、保守党政権との攻防戦もさらに激化することが予想される。

    英国のEU完全離脱後の混乱に一層拍車がかかる要因となろう。

    (石野なつみ・住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト)

    (本誌初出 再燃するスコットランド「独立」 英EU離脱にコロナ禍も影響=石野なつみ 20201215)

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