経済・企業

「EV化に懸念」トヨタ自動車の「水素・FCVへのこだわり」が「戦略的間違い」と考えるこれだけの理由

    	トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」の前で、豊田章男社長(右)から鍵を引き渡される安倍晋三首相(当時)=首相官邸で2015年1月15日午後3時2分、森田剛史撮影
    トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」の前で、豊田章男社長(右)から鍵を引き渡される安倍晋三首相(当時)=首相官邸で2015年1月15日午後3時2分、森田剛史撮影

    2020年12月3日、自動車業界に大きなニュースが流れた。

    日本でも2035年までにガソリン車の新車販売を禁止するというのだ。

    政府は先に、「2050年までにCO2などの温室効果ガスの排出を実質ゼロとする」という目標を発表していたが、その実現に向けた具体策の一つを示した格好だ。

    とはいえ、「周回遅れ」の感が強い日本。

    筆者ら、長年「EV革命」を注視してきた専門家にとっては「今ごろ?」という感じは否めないが、世紀の自動車大革命にようやく日本も参加することになったことは歓迎したい。

    HVとFCVに頼るトヨタは「まだ外野席」

    トヨタは政府の動きに呼応するように、新しい電動車戦略を発表している。

    2030年に販売する新車の50%以上を電動車とし、そのうち10%以上をEVやFCVにするという。

    しかし、政府・トヨタとも考え方が非常に甘いのではないか。

    第1の問題は、「電動車」にHV、PHV、FCVを含んでいることだ。

    世界が純粋電気自動車(EV)の普及を目指す中で、戦略の後進性は否めない。

    まず、HVはすでにエコカーとしては通用しなくなりつつある。

    HVはエンジンとモーターを併用するが、肝心のエネルギー源は100%ガソリンだ。

    つまり、「(多少)燃費の良いガソリン車」でしかない。

    そのため、世界では、HVも禁止するところが多く、また、短期的には許可しても中長期的にはダメになることは間違いない。

    PHVはHVより少しは長く使われるだろうが、ガソリンを使うのだから最終的には不可だ。

    次に、トヨタ特有の問題として水素燃料電池車(FCV)がある。

    筆者は水素技術を「亡国の技術」と呼び、テスラのイーロン・マスクCEOは「燃料電池はバカ電池」と切り捨てる。

    つまり、開発に金がかかるわりに、本格的に普及する可能性は非常に低いということだ。

    日本では、いまだに、「水素は無尽蔵にあるエネルギー資源」などという勘違いが横行している。

    しかし、無尽蔵にあるのは水(H2O)であり、水素(H2)を得るためには電気分解によって酸素(O2)を分離しなければならず、この時に膨大なエネルギーを消費する。

    さらに、得られた水素はそのままでは密度が薄すぎて使えない。

    トヨタの場合は700気圧に圧縮してタンクに入れるのだが、ここでも100キロ走れる程度の大きなエネルギーを消費する。

    最後に、取得した水素を空気中の酸素と再結合させて電気を得て走るわけだが、ここでも40%程度のエネルギーを失う。

    つまり、FCVでは元の電気エネルギーの半分以上を捨てることになる。

    対するバッテリー車の場合は、充放電合わせても損失は10%程度でしかないのだから、勝敗は明らかだ。

    マスク氏の言葉に付言するなら「燃料電池はバカ電池、使えば使うほど損をする」ということになる。

    トヨタはFCVのメリットとして航続距離の長さとエネルギー補充の時間の短さを挙げているが、これも時代遅れの発想だ。

    航続距離でもバッテリー車には、テスラ「モデルS」など、実測で500キロを超える車はざらにあり、小型車でも300キロ超が常識になっている。

    FCVのエネルギー補充時間も実のところ短くはない。

    確かに、水素充填時間は5分程度だ。

    しかし、水素ステーションが日本中に百数十カ所しかないので、多くの場所で、「最寄り」のステーションまで往復で数時間かかるのが現状である。

    しかも、往復して自宅に戻ってきたら、燃料の半分を消費しているという具合だから話にならない。

    この水素ステーションを2025年までに320カ所に増やすという計画があるようだが、1カ所の建設に5億円もかかるのでは、はかどるはずはない。

    しかも、仮に320カ所が実現したとしても、この程度では「焼け石に霧吹き」ぐらいの効果しかない。

    電動車への移行に関して「全方位戦略」を採るトヨタは、単に先を読めていないということでしかないように見える。

    トヨタは、全個体電池で世界トップを目指している。

    これが完成したら、EVの優位はゆるぎないものになり、FCVのメリットが消滅することは分かっているはず。

    そろそろ、EVに集中しないと、「新ゴールドラッシュ」に乗り遅れてしまう。

    村沢義久(むらさわ・よしひさ)

    1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、米コンサルタント大手、べイン・アンド・カンパニーに入社。その後、ゴールドマン・サックス証券バイス・プレジデント(M&A担当)、東京大学特任教授、立命館大学大学院客員教授などを歴任。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)など。

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