国際・政治

外交政策で日本が反論できない問題提起をしていたトランプ政権=原田泰

連邦議会議事堂を囲むトランプ大統領支持者=米ワシントンで2021円1月6日、高本耕太撮影
連邦議会議事堂を囲むトランプ大統領支持者=米ワシントンで2021円1月6日、高本耕太撮影

 トランプ政権については、それが米国の深い分断から生まれ、世界の民主主義のみならず、米国の民主主義すらも危機に陥らせる危険があると多くの識者が論じている。なかでも、任期の最後に、議会への乱入を扇動したことには(トランプ氏はもちろん否定しているが)、多くの共和党議員も危機感を抱いたのではないだろうか。ならず者を国家の中核に入れる訳にはいかないと思った共和党員も多かっただろうと思う。

 トランプ大統領が問題なのは当然であるが、それまで当たり前とされてきた米国の外交政策、経済政策、国内政策について、重要な問題提起していることもある。

外交政策に関連して、正しい問題提起と考えるのは以下の2点だ。

1.米国はエネルギーにおいて自立しているのに、なぜ中東の平和に関与しなければならないのか。なぜ、そのために米国の兵士の命をかけるのか。戦争が人道的でないのはもちろんだが、なぜ米国が世界の人道に責任を持たなければならないのか。

2.豊かな国の防衛のためになぜ米国がコストをかけないといけないのか。豊かな国は、あるいは豊かでなくても、防衛費を増額して自分で自分を防衛するべきだ。

シェールで中東和平に関心を示さなくなった米国

 図は米国の一次エネルギー生産量、消費量、自給率(消費量/生産量)を示したものである。ここで一次と言っているのは、LNG(液化天然ガス)を生産して、それで電力を生産したのを二重勘定していないで、最初のエネルギー生産量または消費量だけを計算しているという意味である。

米国の一次エネルギー生産量、消費量、自給率(消費量生産量)
米国の一次エネルギー生産量、消費量、自給率(消費量生産量)

図に見るように、2000年代初までは、エネルギー消費が伸びるとともにエネルギー生産が停滞することによって自給率が低下していたが、それ以後、自給率が高まり現在では1を超えるようになったことを示している。理由は、米国でシェールオイル・ガス採掘の技術革新によってエネルギー生産量が増加したことと経済のサービス化によって消費量が増えなくなったからである。

中東など重要なエネルギー産出国の間で戦争が起こったり治安が乱れたりして困るのは、エネルギー自立できない国々(例えば日本)であって、米国にとって、どうでもいいことになった。戦争は人道危機をもたらすが、だからと言って軍隊を送って戦争を止めさせることができるのか。なぜ米国がそれをしなければならないかというのである。

「豊かな国は自分で自分を守れ 」

 米国の防衛費の対GDP比は3.4%である。G7諸国で見ると、カナダ1.3%、フランス1.9%、ドイツ1.3%、イタリア1.4%、日本0.9%である。ロシアは3.9%、中国は1.9%(これは当てにならないと後出のDatabaseに注記がある)である。

アジアでは、台湾1.7%、韓国2.7%、インド2.4%である。米国の防衛費はロシアと中国に対するものである。であるなら、他の国も増額して自分で守れと言うのである。北大西洋条約機構(NATO)加盟国はとりあえず2%にしろというのがトランプ以前からの米国の主張でもあった。

トランプ大統領に解任され、良識派、国際派と言われたジェームズ・マティス国防長官も、NATO国防相理事会で、加盟国の国防費をGDP比2%の目標値に達するよう求め、「西側の価値観を守るにあたって、米国の納税者が不釣り合いな負担を担い続けることはできない。皆さんの子どもたちの将来の安全を、我々が皆さん以上に守ってあげることはできない」と述べた(NATO加盟国の負担増なければ「関与弱める」=マティス米国防長官、BBC Japan 2017年2月16日)。

 これに同意する国もある。

 ロシアと陸続きのエストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド(リトアニアとポーランドの間にはベラルーシが入っている)である。

 エストニアとポーランドはそれ以前から、ラトビアとリトアニアは2016年から急激に防衛費を伸ばして2%を達成している(防衛費は、STOCKHOLM INTERNATIONAL PEACE RESEARCH INSTITUTE, SIPRI Military Expenditure Database、による)。

*   *   *

 2つの主張とも、正しくないとしても、反論することが難しい。エネルギー産出国の治安維持も世界の平和も人道の確保も、ではお前がやれと言われても困ることばかりだ。

(原田泰・名古屋商科大学ビジネススクール教授)

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