止めるに止められない……日本全国で「空き家」が量産される理由
日本は第二次世界大戦の敗戦で焼け野原になった後、奇跡的ともいえる経済復興を遂げ、一気に先進国の仲間入りをはたした。
まずは鉄鋼・石炭などの関連産業に人・モノ・カネを投入する「傾斜生産方式」の政策で産業復興の糸口を見いだした。
朝鮮戦争による経済特需を経て、1954年の鳩山一郎政権あたりから曲折を経ながらも、20年ほど続く高度経済成長期に入る。
60年には池田勇人内閣が「所得倍増計画」を掲げ、国民所得も伸びた。
テレビCMで「モーレツ!」といったキャッチコピーの流れていた時代だ。
50〜60年代は、仕事を求めて地方から東京・名古屋・大阪の3大都市圏への急激な人口移動があった。
地方から都市に出てくる労働力は「金の卵」と呼ばれて引っ張りだこだった。
やがて、従来の都市部居住者や、地方から出てきた人たちが住宅を購入するようになるころに現れたのが「新築持ち家信仰」。
当時は都市部の住宅が全く足りず「造れば、飛ぶように売れる」といった状態だった。
66年には深刻な住宅不足を解消するために「住宅建設法」を制定。
これに基づいて「住宅建設5カ年計画」が策定され、公営・公庫・公団住宅の建設戸数目標などが位置づけられ、新築住宅の建設が強力に推し進められる。
とりわけ東京など都市部の住宅難は深刻で、国会で「5年ごとの計画では甘い! もっと住宅を増やせ! 新築を造れ!」と野党が叫んでいた。
広さ、質を追求
日本のGNP(国民総生産)が米国に次いで世界2位に躍り出た68年、住宅数が世帯数を上回る。住宅数が1世帯当たり1・01戸、空き家数が103万戸といった調査結果を受けて「日本は住宅過剰時代に入った」「住宅問題の解決を目的とする理論も政策も、住宅過剰時代に対応できるように改められる必要がある」との指摘も一部で上がった。
だが、今度は海外から「ウサギ小屋」と揶揄(やゆ)された住宅の「広さ」や「質」を追求する局面に入る。
そうこうしているうちに85年のプラザ合意を経て、日本経済はバブル経済に突入し、90年初頭にバブルが崩壊した。
その後、住宅政策の目的は主に「景気対策」に置き換わった結果、「景気を冷やしてはいけない」という一点を目的にした新築住宅促進政策がこれまで過剰に推進されてきた。
住宅建設法はその役割を終えたとして廃止。代わって「良質な住宅ストック形成」や「良好な居住環境」の形成を目的とした「住生活基本法」が2006年6月にスタートするが、この時に住宅の「量的目標」がなくなってしまった。
最近は、新築住宅購入促進を目的として「住宅ローン控除」といった税金還付や、「固定資産税減免」などの優遇策に加え、低金利政策で新築建設促進に更に拍車をかける。
これらにより、空き家が量産されている。
野村総合研究所は、これから本格的な人口・世帯数減少を迎え、848万戸(18年)の空き家数が33年には1955万戸になると予測している。
(本誌初出 住宅政策が景気対策に転換/85 20210309)
■人物略歴
ながしま・おさむ
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立