教養・歴史

変異ウイルスの感染爆発目前のいま広島県が打ち出した無症状の人を大量に検査する「社会的PCR検査」が注目されるワケ

歴史的遺産の多い広島県は「社会的PCR検査」という新たな道を切り開いた
歴史的遺産の多い広島県は「社会的PCR検査」という新たな道を切り開いた

 広島県が6日、広島市と福山市で働く約56万人を対象に、新型コロナウイルスPCR検査を月内に実施すると発表した。

 広島県の湯崎英彦知事は1月14日にも、広島市民120万人の6割に当たる「73万人の県民にPCR検査を実施する」というコロナ対策を打ち出している。直前の感染者減少によって実施規模は縮小されたものの、この宣言は結果的に県民の結束を固め、コロナ封じ込めの新たな可能性を切り開いたと考えられる。今回の発表によって、「広島方式」に再び注目が集まっている。

 湯崎知事の73万人検査の決定に対し、当時、地元の保健所からは「現場に負担がかかりすぎる」、感染症学者からは「費用対効果で疑問」と反対の意見が出た。

 最終的には規模を縮小したトライアル検査に変更されたが、これがきっかけとなり検査キットを薬局で事前に配布する新たな検査方法に道筋をつけ、広島市薬剤師会からは「現状把握に大きな成果があった」という評価の声があがった。

編み出したのは「社会的PCR検査」

 県の試みは、無症状の人にも検査する“社会的PCR検査”を実施することで、「地域住民の精神的な健康・安心・安全を担保」(広島市薬剤師会)する新たな検査方法を編み出した。

 変異ウイルスの感染が全国的に問題となり、国民に不安が高まり新しいステージに入ったいま、広島県の挑戦は全国規模でも注目される取り組みになりそうだ。

広島市の人口の6割に匹敵する73万人のPCR検査を打ち出した広島県の湯崎英彦知事
広島市の人口の6割に匹敵する73万人のPCR検査を打ち出した広島県の湯崎英彦知事

面的な検査を決めた湯崎知事の真意

 湯崎知事は「検査の集中実施という決断に踏み切ったのは、飲食店の時短要請や休業要請は社会経済に与える影響が大きいうえに、協力支援金の財政負担も大きい。それを考えて面的な検査の実施を決めた」と説明する。

 もともと広島県は73万人を検査するといっても、実際には4割程度の28万人程度とみこんでいた。

 それが直前になって少人数のトライアル検査に変えたのは、全国一厳しい飲食店への時短要請の結果、陽性率が劇的に下がっていたからだ。

時短要請で計上した予算は149億円

 広島県は昨年12月17日から今年2月21日まで、市内の飲食店に対し、酒類の提供は午後7時まで、営業は8時までいう時短要請を行った(2月8日に時短は緩和)。

 4月5日に大阪など3府県が「まん延防止措置」を適用する前の段階で、広島県はこの全国一厳しい時短要請のため飲食店への協力支援金として149億円の予算を計上した。

 この結果、2月8日には人口10万人当たりの陽性者報告数は2.8人まで激減し、78万人検査を少数のトライアル検査に切り替えたのだ。

検査の最初の接点は薬局

 トライアル検査は2月19~21日と24~26日の6日間、市内中心部の広島市中区の住民と就業者を対象に実施し、6,573人が検査を受けたが,それに先立ち、検査キットを事前に薬局で配布した。

「薬局サイドからいえば、このトライアルがPCR検査の最初の接点として本当に薬局が機能することができるのかの検証でもありました」広島市薬剤師会の中野真豪(しんごう)会長はこう語る。

「結果として多数が検査に参加し、薬局が参加することは大きな意味がありました」(中野会長)。

 広島市中区でLPガスの供給や保安を手掛ける中村設備産業の中村誠社長(63)は「広島県が積極的に検査するから受けてみたらどうか、という知人の声を聞いて、2月21日の日曜に旧広島市民球場の特設会場でPCR検査を受けました」という。

「不安だからというより、興味がてらです。でも、感染したのを知らずに無症状の感染者になって、検査も受けず仕事を続けるのもいいことではない。だから受けるべきだと思いました」。中村さんは陰性で安心したそうだが、「会社勤めと違い、自営業者の皆さんは万が一のことを考えで検査を受けるのがいいと思います」と釘を指す。

若年層の検査をどう促すか

 規模が縮小したとはいえ、無症状の人でも受けられる検査ではやはり若年層の参加率が低いという課題が浮かび上がった。 しかし、「薬局経由での参加は若年層の検査を促す効果もあった」と湯崎知事は指摘する。家族の誰かが薬局に検査キットを取りに行けば、家族全員の検査が促されるからだ。

「薬局は感染拡大防止の一助になれる」

 広島市薬剤師会も薬局を活用するメリットとして、「薬局は地域住民が身近でアクセスしやすい」「公衆衛生の専門家である薬剤師に感染対策や健康相談もでき、症状のある人は早期の受診奨励ができる」といった点をあげる。

 中野会長は「薬局が常設のアクセスポイントとして感染拡大防止の一助になれる」ことを確信したという。

医療的検査とならび重要な「社会的検査」とは

 広島市薬剤師会はトライアル検査を経て、無症状の人を対象に感染状況が落ち着いている時期でも実施する「社会的PCR検査」の実施を広島県に提案した。

 症状のある人を対象にした早期治療のための「医療的PCR検査」と並び社会的検査の重要性を痛感したからだ。

 中野会長は「感染者を根こそぎ洗い出すのではなく、地域住民の精神的な健康・安全・安心を担保するための検査」だという。例えば年末に県外のおばあちゃんの家に帰りたかったがコロナ感染を恐れていけなかった、という人は日本に多くいるのではないか。「そういうときこそ薬局を窓口に気軽に検査を受けていただければ、陰性を確認し、安心していただける」(中野会長)というわけだ。

コロナ封じ込めで成果を上げつつある広島
コロナ封じ込めで成果を上げつつある広島

県民の行動変容を促した知事の発言

 湯崎知事は、「首都圏は人口規模も大きいし、さまざまな関係団体がいて調整が難しいのはわかるが、広島では医師会、薬剤師会、看護協会、社交や飲食の業界の関係団体が一丸になって取り組んできました。そういった関係構築も重要なことではないでしょうか」と語る。

 広島県ではトライアル検査の実施から約2か月を経て、直近1週間の人口10万人当たりの陽性者報告数は2.85人(4月13日時点)にとどまっている。県知事による「73万人」という一斉検査の宣言は、県民や事業者の行動変容を促したようだ。

感染爆発で何をするかは事前に決めておく

 湯崎知事は「PCR検査のモニタリングで感染拡大が確認されたときにどうするか、自治体のトップは方針を事前に出しておくことが重要です」と指摘する。

 結果によっては時短要請を出すのか、厳しい外出制限をするのか、検査で陽性者を発見して隔離していくのか、「その戦略をはっきりさせておいた方がいい。まず予兆を確認したらPCR検査を面的に、集中的に行って陽性者のできるだけ多くの割合を隔離していくことやっていきたい。そういう方針を広島県はしっかり立てています」(編集部)

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