教養・歴史書評

ハローワーク担当者が翌日は相談者に 非正規労働の悲惨な実態=新藤宗幸

『非正規公務員のリアル 欺瞞の会計年度任用職員制度』=評者・新藤宗幸

著者 上林陽治(地方自治総合研究所研究員) 日本評論社 2090円

「官製ワーキングプア」の過酷な労働環境を告発

 ハローワークで求職者の相談にのっていた非正規相談員の彼女は、翌日、失業者となって非正規相談員に求職相談する。こんなブラックジョークのようなことが本当に起きていると著者はいう。ハローワークに勤務する職員の6割は有期雇用の非正規公務員であり、国の期間業務職員制度による職員だ。1回の任期は1年以内で連続2回までは勤務成績によって継続雇用されるが、3回目は一般求職者と一緒に公募試験を受けねばならず、雇い止めが起こる。

 非正規職員問題は、国よりも地方自治体で深刻だ。自治体の非正規職員の実数は112万5746人(2020年総務省調査)。非正規率は29%。市区町村に限ると44・1%だ。

 図書館の臨時・非常勤職員は1987年度にはわずか1487人だったが、その後増加し、18年度には1万9648人となっている。一方で専任職員は18年度に1万939人であり、いまや「マイノリティー」だ(文部科学省「社会教育調査」より)。同じような事態は公立小・中学校でも起きている。16年度で正規教員は57万8139人だが、臨時教員、非常勤講師、再任用短時間勤務教員を合わせると12万3874人である(自治労学校事務協議会の独自の調査に基づき著者が計算)。教員総数の実に6人に1人が非正規教員だ。

 地方自治体で非正規職員の増加を促しているのは、単に財政逼迫(ひっぱく)が理由ではない。DV、高齢・障害者・児童虐待、自殺対策などの相談窓口の設置が、法令で次々と自治体に義務付けられた。だが周辺業務とされてきた相談支援に正規公務員を配置する余裕はなく、専門能力を持つ職員の養成もできていない。こうして外部の人材を任期1年の非常勤職員として登用しているが、その多くは劣悪な雇用条件に加えて女性である。

「官製ワーキングプア」問題に対応するとして政府は、20年度から「会計年度任用職員制度」をスタートさせた。文字通り会計年度限りの任用だが、この適用職員はフルタイムとパートタイムに分けられている。前者には給料や期末手当、退職手当などが支給される。後者には報酬と通勤費等の費用弁償に加え期末手当のみが支払われる。一見すると、非正規職員の処遇の改善のようだが、実態は官製ワーキングプアの固定化にすぎない。

 本書は非正規公務員の労働状態や自治体行政そして国の対応に迫る労作である。コロナ禍が大規模に進行するなかで、市民に最も身近な自治体は、構造的に脆弱(ぜいじゃく)そのものだ。その改革が政治に問われていよう。

(新藤宗幸・千葉大学名誉教授)


 上林陽治(かんばやし・ようじ) 1960年生まれ。国学院大学大学院経済学研究科博士課程前期(修士)修了。2007年より現職および関東学院大学兼任講師。著書に『非正規公務員』『非正規公務員という問題』など。

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