週刊エコノミスト Online 船井総合研究所 社長online
SDGsに取り組むなら「まずは再生エネルギーに着手すべき」と断言できる理由
SDGsへの関心が日々高まっている。中でも再生エネルギーは、菅政権の脱炭素の声明発表などによって注目を集めている分野だ。急展開し始めた再生エネルギーの最新事情を、船井総合研究所の経営者向けウェブメディア「社長online」よりお届けする。
SDGsは、昨今話題に上り、ニュースでも取り上げられるようになってきました。船井総合研究所でも、この1年近くでSDGsという単語を聞くようになりましたし、会社としても力を入れています。
BtoBビジネスをしている会社ほど、SDGsに熱心に取り組んでいる傾向があります。特に、中小から大手企業まで取り引きがある金融機関や製造業、建設業、再生可能エネルギー事業に取り組んでいる会社などが、SDGsをこの1、2年で掲げています。
SDGsは、「サステイナブル・デベロップメント・ゴールズ」の略語で、17の開発目標を2030年までに達成しようと、国連サミットで採択されたものです。
内容は「貧困をなくそう」、「パートナーシップで目標を達成しよう」、「エネルギーをみんなでクリーンにしていこう」、「ジェンダー平等を実現しよう」など多岐にわたります。
SDGsは「経費ではなく投資」
このSDGsについて、やはり皆さんが気になるのは「これに取り組んで何かいいことがあるのか」ということだと思います。すでにSDGsを掲げて取り組んでいる会社に聞くと、「経費ではなく投資」という発想でやっているようです。
時間と人手を割いて取り組もうとするとついつい「やることが増えるな」「これがもうけにつながるの?」ということを考えてしまいがちですが、SDGsの17個の目標は、実はすでに行っている商売に含まれているケースが大半です。
SDGsに関心はあるけど、少し二の足を踏んでいるという会社は、17個の中から「あれ、これはうちもやっていることだよね」とか「今のビジネスの延長線上に、これあるよね」というものを抜き出して考えてみると、スムーズに始めることができます。
SDGsについて「単なる企業PRに留まるのではないか」という考えの方も多いと思いますが、企業を経営するうえで、もうけにつながりやすいところから着手するのが理想でしょう。
国の方針のSDGsもありますが、ここ最近で一番印象的だったのが菅総理の2020年10月の所信表明演説です。「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにします」と高らかに宣言しました。これはいわゆる、カーボンニュートラル「脱炭素経営」です。
菅政権がカーボンニュートラルを打ち出した理由はいくつかありますが、カーボンニュートラルは単に「環境は大事だよね」ということではなく、気候変動のリスクまで考えた流れになっています。最近の大雨や洪水被害、大規模な停電などは全て大きなきっかけになっています。つまり、「行動しないことがリスクにつながる」という発想が必要なのです。
脱炭素経営はコスト削減につながる
「脱炭素」を「今のビジネスの延長」で始めるとしたら、具体的にどのような形が考えられるのでしょうか。
エネルギー業界でわかりやすく言うと、「コストを削減できるような設備を販売する」、「CO2を少しでも減らすような商品を制作・販売する」、「エコカーに乗っている」というのも、十分これに当てはまります。
では、「もうけにつながりやすいところから」というと、具体的にはどのようなことからスタートしたらいいのでしょうか。
菅総理が脱炭素経営を掲げているということを先ほどお伝えしましたが、太陽光発電などの再生可能エネルギーは、二酸化炭素を排出している火力発電より実は安上がりです。つまり、脱炭素経営はコスト削減にもつながるのです。
「エコ」というと、「お金がかかる」「大変」というイメージをお持ちの方も多いかと思いますが、実は技術革新によってこれが変わってきています。
実際に脱炭素経営を実行しようとした場合に、自分たちが一番使っているのは電気ですから、まずは電気を再生可能エネルギーのものに変えていくところからスタートできます。
自分たちで再エネ電気を作る
方法は三つあります。一つ目は、「自分たちで再生可能エネルギーの電気を作る」こと。日本で一番取りかかりやすいのは太陽光発電です。事務所の屋根につける、あるいは、近くの空き地に太陽光発電所を作る、これを自分たちの事務所につなげて、発電した電気を自分たちで使う、ということが可能です。
二つ目は、「再生可能エネルギー由来の電気を使う」ことです。大手も電力会社も、「100%再生可能エネルギーで作った電気」を販売しています。恐らく皆さんは様々な電力会社と契約されて、そこから電気を買っていると思いますが、最近では「再エネ100%」というプランが出始めているので、それを買うのが一番手っ取り早い方法と言えるでしょう。
三つ目は、「再エネの価値」です。これは証書化されているので、それを「買う」ことです。大手企業では多くの電気を消費しているので、自分たちだけではどうにもならないという会社は、価値自体を証書として買っているケースもあります。
以上三つの方法によって、脱炭素化経営をスタートできます。
実行する順番として私たちがおすすめしているのは、自分たちで太陽光発電システムを屋根あるいは空いている土地に付けることです。メリットは電力会社から電気を買うよりも安くあがることです。当然、発電所を作るうえで設備投資は必要ですが、今は10年未満で投資を回収できます。
また、優遇税制もあるので、太陽光発電システムを設置して、その電気を自分たちで使うことで、現時点では一括償却が可能です。例えば、設備費用が1000万円の場合、減価償却が17年なので、本来は少しずつ減価償却していくものですが、今の制度では初年度で全一括償却ができます。
1000万円分の償却によって、帳簿上一気に利益を減らすことができるので、利益が多い会社にとっては税金対策にもなります。
また、屋根につけた場合は遮熱効果や電気の使用量の削減なども兼ねているので、投資に対してのリターンも十分得られます。
自然災害や、そこから起きる停電などを解決することを目的に太陽光を扱う法人に対しても助成金が出ます。これを使えば、10年どころかもっと早いスパンで投資回収が可能になります。
立派な屋根がなくても太陽光発電に取り組める
太陽光発電は最近まで、大きい屋根がないと難しいという課題がありました。しかし技術の進歩によって、ブロックチェーン技術を使って遠方に発電所を作っておくことで、自分たちのいる事務所の電気を再生可能エネルギーで賄うことが可能になりました。ここにも国から補助金が出ています。
かつては事務所が賃貸だから勝手に屋根に付けられないとか、屋根がそもそも小さいからメリットが少ないとか、屋根がボロボロだから付けられない、といったことがありましたが、恐らく来年からは、こうした環境であっても、太陽光発電がスタートできるようになるでしょう。
リスクとしては、地震があります。他の自然災害は保険で対応できますが、地震保険に入るとコストがかさんでしまうので入っていないケースが多いのが現状です。
では、どのような条件を満たせば、こうした補助金が受け取れるのでしょうか。
まずは太陽光発電を設置して、きちんと自分たちの事務所で消費することが大前提になります。近年は、発電して電気を全て電力会社に売って、収益を上げることを目的とする発電所が大半でしたが、国としてはここに補助金を出すということではなく、あくまで自分たちの電気として消費するというところに出すのです。
規模としては、10㌔㍗以上のある程度の規模がないとだめだという話もありますが、小売店や製造業の工場など大半の場所で設置することが可能です。基本的にハードルは低くなっています。導入費用としては、1500万円ぐらいで1/3程度の補助金が出るという内容になっています。
市場規模の大きさが魅力
次に、具体的な手続きについて見ていきましょう。
まず、どのくらい電気代が下がるとか、どのぐらい設備費用がかかるか、といったシミュレーションが必要になりますので、そこは太陽光や電気系に詳しい法人、販売店に相談するのが一番です。
補助金がスタートするのが5月ぐらいからになりますので、申請が下りてから設置して、となると3カ月くらいかかります。設置作業そのものについては、規模にもよりますし、法人が24時間電気を使っているとなると一旦電気を止めないといけないので、時間がかかるかもしれませんが、基本的には2日ほどで終わります。そこまでの手続きに時間がかかるのです。
先ほどお伝えしたように、国はいかに太陽光の導入のハードルを低くするかということに力を入れています。自分たちの屋根が使えなければ他社の屋根を使ったり、違う法人の屋根を借りたりして、そこに太陽光を設置していく、といった様々な形態が出てきています。
先ほどお話ししたブロックチェーンも、田舎のまったく使っていない山奥に発電所を作って、そこから電線ではなく、ブロックチェーン上で自分たちの事務所まで電気を届ける、という仕組みが間もなく始まりますので、これが来年から実現すれば、設置スペースのハードルはなくなります。再生可能エネルギーの中の太陽光はますます進んでいくでしょう。
SDGsの17個の目標のうち、もっとも市場規模が大きいのが7番の「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」です。要は、エネルギー開発や発電ガス事業など、ここが群を抜いて市場規模が大きいわけです。
ビジネスは、市場規模の大きいところから取り組むのが一番です。まずはエネルギーから、たとえば異業種であっても、参入していくのが良いのではないでしょうか。
(船井総合研究所エネルギー支援部スマートエネルギーグループ・穂垣勇介)