仕事・結婚・出産拒否の「横たわり族」が増加 無気力な若者が中国経済を滅ぼす=和田肇/加藤結花
中国社会で、「躺平(タンピン)族」という若者の集団が話題になっている。日本語に直すと「横たわり族」。物欲がなく、仕事や結婚、出産を拒否し、「常に横たわっている」若者たちのことだ。共産党の機関紙『人民日報』系の『環球時報(英語版)』は6月1日、「中国のSNS上で問題提起され、白熱した議論を引き起こしている」と報じた。
避けられない経済成長鈍化
中国は、中長期的に見れば、少子高齢化が予想以上の速さで進行し、「世界の工場」の原動力となった労働人口は既に減少局面に入った。このままでは、経済成長率の鈍化は避けられない。一方で、共産党による国有企業優遇政策のもと、イノベーションを担う民間企業群が育っていない。厳しい受験競争を潜り抜けた大卒者は大幅に増えたが、彼らに見合う仕事が不足している。
社会人になったとしても、不動産バブルによる地価上昇、教育費の異常な高騰で、家を買い、子供を持つことは、かなわぬ夢になりつつある。だが、「インターネットで不平不満を漏らしたら、捕まってしまう。無力感の中で『俺はやめた』となり、横たわる」(神田外語大学の興梠一郎教授)。
国有企業優位の弊害
経済を再び成長させるため、政府は5月末、3人目の出産を認める方針を決め、少子化の解消を狙うが、効果が出るまでには1世代はかかる。人口が減る中で、経済を成長させるには、企業によるイノベーションが欠かせないが、民間企業が国有企業より技術力や財務力で優位に立てば、民間主導の流れが強まり、共産党が全てを支配する独裁体制が危うくなる。
アリババやテンセントといった巨大IT企業に対する昨今の締め付けは、まさに、その表れだ。国有銀行を脅かすほどになったアリババ傘下のアント・グループは、習氏が直々に、株式上場を阻止した。だが、民間企業を規制すれば、イノベーションも起こらないジレンマに陥ることになる。さらに、経営効率が悪く腐敗がはびこる国有企業が経済の中心に居座れば、社会の停滞はますます強まる。人口減少、若者の不満、イノベーションの沈滞、諸外国との摩擦と、内憂外患を抱え、習近平政権はどこに向かおうとしているのか。
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6月28日(月)発売の週刊エコノミスト7月6日号「日本人が知らない 中国 本当の危機」では、巻頭記事と各特集記事で、今年7月に共産党の結成100周年を迎える中、習近平体制の抱える課題や行方について、検証します。人口減少による低成長で、習氏が2012年に党総書記に就任した際に、国民に約束した「小康社会(皆がそこそこに豊かな社会)」の実現に黄信号が付き始めました。昨今の国内外における中国の強権的な動きは、国内情勢の不安定さの表れ、との分析もあります。
特集では、不動産バブル、企業の債務不履行、想定以上の少子高齢化、半導体国産化の難航、中国製ワクチンの品質問題、台湾有事など、中国が抱える様々な問題を多面的に解説します。
一方で、第2部では、投資対象としての「中国」についても、紙幅を割きました。ぜひ、ご期待いただければと思います。