中国の経済メディアが文春新書まで引き合いに出して報じた東京五輪マネーの闇
新型コロナウイルス感染収束が見通せないまま、東京2020オリンピック・パラリンピック大会の開幕日が近づいている。主催者の国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会、そして「主催者ではない」(菅義偉首相)はずの日本政府がなし崩しで有観客開催に突き進むなか、中国の有力経済誌「財新週報」(6月28日号)https://weekly.caixin.com/が、サッカーやオリンピックなど国際スポーツ大会再開の特集記事を掲載した。感染対策やスポーツビジネスあり方を問う内容で、開催地が東京に決まるまでの不透明な過程やオリンピック・マネーを取材した日本の新書も取り上げ、詳細を報道している。
日米記者による10ページの特集
「トップスポーツ大会が帰ってきた」というカバーストーリーは日米の記者による10ページの特集だ。
発行元は「財新メディア」で、中国の独立系経済メディアとしてネットや紙媒体などで経済ニュースを発信している。
新型コロナ禍で延期されていた世界のスポーツ大会の再開状況を伝えると同時に、パンデミック下でのスポーツビジネスの置かれた環境変化を指摘している。
サッカーのユーロ2020だけでなく、各国のサッカーリーグの動向を伝え、コロナ禍ではチケット収入の依存度が高い小規模のクラブ運営が危機に瀕し、テレビ放送やスポンサーなどの収益源を持つ大規模なクラブが生き残っていると分析した。一方で、中国国内で放映権を持つスポーツ放送局が損失を被ったことを記している。
米プロバスケットボール(NBA)や米プロフットボール(NFL)などが感染症対策と興行を両立させるため、選手や関係者に毎日のPCR検査実施などで、感染から隔離環境を維持する「バブル方式」とその実績を紹介している。
行政と政治による「都市開発の便利な道具」
東京2020大会については、コロナ禍で延期に至った経緯や日本のワクチン接種状況、選手の感染症対策を具体的に示したうえで、米研究者が大会で空気感染対策が不足している――などの課題を指摘。選手の交流を防ぐことはできないとして、東京大会の「バブル方式」の実効性に疑問を投げかけている。
また、日本がオリンピックを通じて、中国との新しい外交関係構築を目指していたとの中国の日本研究者の分析を踏まえ、G7での開催支持とりつけに菅首相が動いたと判断している。
拙著『オリンピック・マネー』(文春新書)で指摘した米ボストン市の2024年大会開催都市立候補取り下げ、その際にコストが合わないとレポートを書いたコンサルタント会社の当時の担当者に直接話を聞くなど、掘り下げは深い。
筆者が指摘したオリンピックが「錦の御旗」として行政、政治が都市開発の便利な道具として使っていること、アジアでオリンピックが過剰に神聖視されていることもそのまま掲載している。
拙著でIOCが開催都市契約で圧倒的優位な立場にあり、なおかつ財務面で責任を負わないことを契約条項の文言を引用して示した。「オリンピック競技大会は、IOCの独占的な財産であって、IOCはこれに関するすべての権利」を「永続的にこれを所有する」とある。IOCはもともと聖職ではなく、オリンピックは神聖な儀式でもなく、ビジネスの道具であるのは当の組織が公言していた。新型コロナ禍がようやく神聖のベールをはがした。
コロナの空気感染にも言及
財新の報道は深読みすれば、コロナ禍で再開されている海外の国際スポーツが商業と感染防御の間でまた裂きとなり、一般人の反感を招いている事実を列挙することで、中国政府にメッセージを送っているように見える。
ただ、空気感染のように日本の在京メディアが触れるのを避けている題材を取り扱うなど、硬派雑誌との名声に応える内容に仕上がっている。