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“金麦の母”サントリーワイン・吉雄社長が語る「二律背反」を超えたワイン造りとは(インタビュー前編)

    サントリーグループの事業会社で初の女性トップとなったサントリーワインインターナショナル(SWI)の吉雄敬子社長
    サントリーグループの事業会社で初の女性トップとなったサントリーワインインターナショナル(SWI)の吉雄敬子社長

    今年1月、サントリーグループで事業会社として初の女性社長となったサントリーワインインターナショナル(SWI)の吉雄敬子氏に、サントリーでのワイン事業の位置づけ、そして新型コロナウイルスによる時代の変化が事業にどう影響しているのかを聞いた。

    ―― 今年の1月にサントリーワインインターナショナル(SWI)の社長に就任して半年がたちました。

    吉雄 ワインは、社長に就任する前はたまに飲む程度のものだったのですが、就任後にじっくりと向き合ってみると、本当にお酒として魅力的だと感じています。いろいろな種類があって、どれを飲んでも楽しめますし、たとえば、当社にはワイナリーがあるので、ぶどうの植え付けや栽培なども見ることができる。いままで食品やビールの業界に長く身を置いていましたが、そこから見ていたものとは違った、ワイン造りの魅力に触れることで、大変ではありますが、それ以上に楽しい事業だなと感じています。

    ―― SWIは、サントリーグループではどのような位置づけなのでしょうか。

    吉雄 当社は国内ワイン事業4社のなかでも、最も規模の大きい会社です。輸入・国産ワインやカジュアルワインなど、幅広くポートフォリオをそろえています。また、当グループでは、ものづくりの歴史と伝統を守る新しいチャレンジと革新を進めていくことを大事にしています。そのような意味では、創業ビジネスにあたるワインは、歴史と伝統がある事業の1つとなっています。

     また、ワインはお酒としても非常に重要です。ワインユーザーというのはワインしか飲まないというよりは、他のお酒も好きで酒量が多いという傾向があります。そのような他のお酒も研究しているユーザーにSWIが良いワインを提供していくことは、グループ全体にとっても大事な役割を担っていると言えます。

    ―― 「歴史・伝統」と「革新・チャレンジ」、これは二律背反しているのではないですか。

    吉雄 ものづくりとは、そういうものではないでしょうか。きちんと歴史と伝統を守りながら、新たなチャレンジを試みるというのは軸さえあればできるものです。そういった意味で、1907年に創業者の鳥井信治郎が日本人に合うワインとして「赤玉スイートワイン」を出したのは、非常に革新的でチャレンジングだったと思います。

     今年の1月には組織体制を変更し、ワイナリーワイン事業部と輸入・カジュアル事業部の2つに分けました。ここには大きな意味合いがあります。ワイナリーワイン事業部では、5~10年かけて木を育て、ワインを作るワイナリー(ワインの生産所)を持っており、歴史と伝統のあるものづくりをしています。

     一方、輸入・カジュアル事業部では、ワインサワーや無添加ワイン、輸入したものを提案していますが、その時々の状況、消費者の志向などを見ながら新しいことにも挑戦しています。

    ―― 2つの事業を走らせるということで伝統と革新性が担保されていく、と?

    吉雄 伝統を下敷きにして革新を進めるという方針は、両事業部で変わらないのですが、比率が違います。よりチャレンジングな要素をやっていくべきだとも思っているところなので、事業部が2つに分かれたというのは、二律背反しない形で進めていくのが、とてもやりやすくなったと感じています。

    ―― 手応えは。

    吉雄 今は新型コロナウイルスによる変化の時期のまっただ中で、消費者の考え方も変わっています。今一度、消費者が求めているものを見直し、何をやるべきかを議論しようと、みんなで必死になっています。

    今年2月に発売されたワインサワーは好調という
    今年2月に発売されたワインサワーは好調という

     具体的な成果はこれからですが、ワインサワー(今年2月に発売、ワインを炭酸水で割ってレモンの風味を加えた商品)はうまくいってますし、無添加ワインも非常に伸びています。日本のぶどうでつくる日本ワインも数字的にボリュームは大きくありませんが、調子はよくなっているので、そういう意味では成果は出つつあります。ただ、今後はワクチンの普及に伴い、外でお酒を飲む人たちがいずれ戻っていくなど、これからも状況は変わっていくと見ているので、常にその変化を注視していかなければなりません。

    ―― サントリーというと「やってみなはれ文化」、この文化は吉雄さんが入社されて以来、しっかり根付いているということでしょうか。

    吉雄 「やってみなはれ」は私たちにとってとても大事な言葉です。私は社長就任までに商品開発やマーケティングの仕事を長くやってきましたが、そのなかでは失敗も多かったですね。今年、年初の会見で鳥井信宏副社長が私について「ずいぶん失敗も多い」と紹介されるほどでした。ただ、そのように説明されたことが、かえって若い社員たちには「チャレンジができる会社だ」と認識され、いい影響を与えたみたいですね。

     商品を世に送り出す以上、長く残る商品ももちろんありますが、それ以上に残っていない商品がたくさんある。それでも次のチャレンジをやらせてもらえるというのがサントリーという企業です。

     ワインはどちらかというと伝統的な部分が強い事業ですから、ビールや食品のほうで培った失敗を恐れずに新しいことに挑戦するという文化を、もっと持ち込みたいと考えています。「新しいことをチャレンジする文化に」ということを標語のように社員にも説明しています。そのときは大きくチャレンジするというが大事、中途半端なものではいけません。その結果として失敗してもいいのです。顧客のことも見えてきて、次にもつながってくるはずです。

     特に、いまはコロナだけじゃなくDXとか、さまざまな部分で時代の転換期にあり、顧客の意識も変わってきている。そのようなときに先を見て新しいことを投げていかないと、どんどん時代に取り残されてしまいます。もっと20~30代の人は世の中を見て、こういうことをやるべきだと声を上げて欲しいと心から思っています。

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    吉雄 敬子(よしお けいこ)

    1968年生まれ、東京都出身、慶応義塾大学法学部卒業。91年サントリー入社。ビール事業部ブランド戦略部課長、サントリー食品インターナショナル食品事業本部ブランド戦略部部長、サントリービールブランド戦略部などを経て、2021年サントリーワインインターナショナル社長に就任。52歳。サントリービール在籍時に「金麦」を企画発案、サントリーの事業会社で初めての女性社長。

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