「1ドル=350円の超円安が来る」 ワタミが今から外国人向け焼き肉店を展開するワケ
新型コロナウイルス禍で大きな打撃を受けた飲食業界。大手居酒屋チェーンを展開するワタミ創業者の渡邉美樹会長兼グループCEO(最高経営責任者)に、復活のシナリオを聞いた。(聞き手=中園敦二・編集部)
―― 今年度後半の経済はどうみていますか?
■ワクチン接種が進み、景気は良くなってくる。各国の中央銀行がコロナ対策でこれ以上ないくらいお札を刷りまくっているからだ。日本でも個人貯蓄が膨らんでおり、コロナが収束すればお金を使い出すので、景気がよくなるのは間違いない。
米中の経営者と連絡を取っているが、その状況からするとワクチン接種率が50%を超えると確実に経済が変わってくる。2回目の接種率が70%までいくと、一気に「元気」になるので、日本でも同じことが起きるのではないか。
居酒屋の顧客は7割しか戻らない
―― 日本政策投資銀行の支援ファンドを引受先とした優先株の第三者割当増資を今年6月に実施して120億円を調達しました。次の一手は?
■以前のように年末に「さあ、忘年会!」とはならない。居酒屋は7割くらいしか顧客が戻らないだろう。焼き肉店やすし店など来店する目的性の強い店に流れていくとみている。居酒屋「和民」ブランドは今年3月で全部閉め、「焼肉の和民」などにチェンジし7月上旬で25店となった。当初、一気に120店変える予定だったが、コロナが収束してからにする。
ほかの居酒屋ブランドも変えて、今秋から積極的に動きたい。とはいえ、いままでの「総合」居酒屋のような何でもありで何でも80点のメニューではない。専門店が集まった居酒屋、我々は「新総合」居酒屋と呼んでいるが、それに挑戦したい。
焼肉、唐揚げ、フライドチキンに活路
―― 例えばどのような店ですか。
■焼き鳥はブランド鶏の専門に、刺身は商社と組んですし店にも負けないものにする。
「焼肉の和民」に加え、既存のテークアウトの「から揚げの天才」や、フライドチキンの「bb.qオリーブチキンカフェ」など全方位展開で11月以降の景気回復に望む。
「から揚げの天才」は100店を達成したが今年度中には200店舗にできると思う。「bb.q」はケンタッキーフライドチキンと完全にバッティングするが、今期だけで80店開業したい。
―― 海外展開も?
■中国・上海に「から揚げの天才」を7月にオープンした。中国の上場企業との提携事業だ。台湾・台北にも焼き肉店を出している。ベトナム、香港は和牛焼き肉店「かみむら牧場」、マレーシアは「から揚げの天才」などとオファーが来ている。香港以外は直営になるだろう。
3~4年先にスタグフレーションが来る
―― 昨年2月にコロナ禍を理由に中国から「和民」の全面撤退を表明して、また海外再出店ですか。
■我々の戦場は、海外だと思っている。日本はこれから少子高齢化で、マーケットはどんどん小さくなる。さきほど景気は良くなると言ったが、実は3、4年後は悲観している。次に来るのはインフレだ。3、4年先には(景気が後退していく中でインフレが同時進行する)スタグフレーションが来る。日銀の金融政策の出口戦略が見通せないし、国会議員をやっていたので分かるが「出口」を探す気を政治家は持ってない。
最終的には海外投資家がジャッジするかたちで「日本終わりだ」となって、大幅な円安が来ると思っている。1ドル=300~350円も想定している。だから、早く海外から利益を上げる態勢を作らないといけないという焦りがある。
―― 超円安時代が到来すると。
■円安なのでインバウンド(訪日外国人客)は今までの何倍も来る。海外の方が日本の需要をもう一度支えてくれる。
焼き肉店や居酒屋もインバウンド向けにやろうと思う。実は焼き肉店の展開はそれが狙い。「和牛」は世界中で人気だ。和牛を世界中から食べに来るような店をつくろうと商品を作っている。食肉加工大手のカミチクグループ(鹿児島市)と提携していて、我々は肉屋みたいなもので世界に和牛を売っていく態勢が整いつつある。中国、アメリカにも出店して和牛で勝負したい。
焼き肉店は2035年までに1000店、唐揚げは30年に1000店
―― インバウンドはいつ戻りますか?
■1ドル=150~200円を超えた段階で爆発するのでは。各国のコロナ対策次第だが2023年4月ぐらいか。「ワクチンパスポート」を持ってないと移動できないだろうから、東南アジアからの来日は無理かもしれないので、ターゲットは中国人とアメリカ人だ。
国内は焼き肉店だけで2035年までに1000店、「から揚げの天才」は25年に600店、2030年には1000店。「bb.q」は10年がかりで現在の10倍の1000店にしようと思っている。そのときの居酒屋は300店舗だ。居酒屋は増やさないで、中身だけ変える。居酒屋マーケットはもう大きくならない。
―― 居酒屋業態はなくなるのですか。
■ライフスタイルが変わった。みんなで飲みに行こう、ワイワイガヤガヤやろうという需要が減った。なくなったわけではないが、忘年会も参加しないことがカッコいいみたいな風潮だ。「新総合」居酒屋は今秋に二つぐらいの新しいブランドが発表できると思う。
―― 21年3月期連結決算は売上高が608億円、営業赤字は96億円でした。
■コロナが収束すればという前提条件で、営業利益は2023年3月期でV字回復して30億円、26年3月期で60億円だ。
事業展開は基本は外食と宅食。あとはお弁当事業で商品開発していく。宅食事業はこれからの主力になると思う。
88歳で会長引退、後継者は長男に
―― ところで後継者は?
■僕が(代表取締役会長を)2048年まであと27年やる。これまで29年間経営者やって(13年から参議院議員として)6年間政治家をやったので、もう一回、29年間経営者をやろうと思っている。“2回目の経営者”として夢のゴールが売上高1兆円だ。そして88歳になれば会長を退く。後継者は長男将也(しょうや)取締役CFO(最高財務責任者)だ。
―― 今後の飲食・外食業界は?
■コロナで皆さん借り入れが増えた。バランスシートが傷んだ状況で、自己資本比率が低い。この状態になると、設備投資をせずにコツコツ利益を増やして自己資本をもう一回厚くするしかない。このため今後3、4年は「攻め」られず、「守る」経営になってくると思う。
だが、「攻め」られずに破綻する企業もでてくる。業界の再編は十分あり得る。「コロナ」と「スタグフレーション」という2度の「谷」を越えなければいけないと思っている。
(終わり)