希代のマーケター・森岡毅さんが西武園ゆうえんちで示すテーマパーク再生の秘訣
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テーマパークを再生=森岡毅 戦略家・マーケター/851
テーマパークのUSJ(大阪市)をはじめ、多くの事業再建に関わってきた森岡毅さん。今年5月、リニューアルオープンした「西武園ゆうえんち」の再生を指揮した。
(聞き手=村田晋一郎・編集部)
「昭和の幸福感は若者の心に刺さるはず」
「テーマパークビジネスはノウハウのない人がやると無駄な金を使って失敗する」
── 今回、西武園ゆうえんちのリニューアルに関わりました。1年半前の計画発表会では「難しい案件」だと語っていました。
森岡 一番の問題は、消費者が西武園ゆうえんちに対して明確なイメージを持っていないこと。近年は集客が下がり、消費者のイメージが希薄化していました。
次に、遊園地のある埼玉県所沢市という場所です。都心から電車で1時間前後ですが、この物理的距離より精神的に微妙な距離感があり、すぐに行ける感じではない。三つ目は多くの施設が古く、消費者の需要からズレていた。
そして最後は、予算が100億円という制約があったことです。西武園ゆうえんちの経営規模からすれば大きな金額ですが、パーク全体をリニューアルできる規模ではない。限られた予算でのリニューアルはチャレンジでした。(ワイドインタビュー問答有用)
西武園ゆうえんちは1950年開業。ピークの88年には年間約194万人を集めたが、近年は需要が低迷し、2018年には約49万人まで減っていた。西武グループは所沢エリア一体の再開発を進めており、西武園ゆうえんちのリニューアルはその一環。白羽の矢が立ったのが、森岡さん率いるマーケティング集団「刀」だった。
面白い体験があるか
── プロジェクトを始めるにあたり、まず考えたことは?
森岡 困難ですが大義があると思いました。まず、日本中に同じような経営規模で、同じような課題を抱えている集客施設は多い。もし西武園ゆうえんちのリニューアルが成功すれば、他の集客施設にも勇気を与えることができる。
また、「成功させるとしたら我々だけだろう」という自負もあった。多分、我々のノウハウを使わないとできないし、そこを西武ホールディングス(西武HD)の後藤高志社長が期待して声をかけてくれた。我々のノウハウと求められていること、そして超えるべき困難の大義の三つの交点に西武園ゆうえんちがあると感じました。やれるかやれないかではなく、やるんだという思いでした。
── この課題に対してどのような“勝ち筋”を考えたのですか。
森岡 念頭に置いたのは、まず総工費が予算の枠に収まること、今ある施設を生かせるアイデアであること。そして都心と所沢の精神的距離感を超えるだけの十分な魅力を持つことでした。
そこで選んだのは、西武園ゆうえんちの古さを良さに変えることでした。物事の良しあしは置かれている状況、文脈で決まります。古さが変えられないのなら、その古さが良いものになる文脈を設定して、良いイメージとして遊園地の顔にしていくのです。
── そこで「昭和」という文脈を設定した。
森岡 「今さら“昭和”で集客できるのか」と思う人もいると思います。しかし昭和はあくまで設定であって、昭和で集客しようとしているのではない。
USJにいた頃、「かつて集客できたのは映画のテーマパークだから。映画のテーマパークでなくなったから人が来なくなったんだ」と言われました。しかし私にはそうは思えなかった。映画かどうかではなく、見たいもの、面白い体験があるかどうかなんです。
見たいものの価値を増幅する環境として、例えば映画のテーマパークで「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のアトラクションを体験する方が興…
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週刊エコノミスト
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