佐川急便に7000台の中国製小型EVバンを供給するのはヤマダ電機出身のファブレスベンチャー
インタビュー 飯塚裕恭 ASF社長 「佐川急便へ7000台の中国製小型EVバンを供給する」<日本発 世界に飛び出すEVベンチャー>
ヤマダ電機出身の社長がこだわるのは価格だ。スピード感ある経営が注目を集めているASFの飯塚裕恭社長に聞いた。
(聞き手=土方細秩子・ジャーナリスト)
元々EVをやろうと思ったきっかけはヤマダ電機時代に「店頭で100万円以下のEVが売れたら面白い」と考えたことだった。
当時ヤマダでは家電、住宅(家具)、EVという3本の柱があり、私はEV部門を担当していた。その時に、日本のEVベンチャーのFOMM(川崎市)の小型EVを佐川急便に紹介したりした。
しかし、当時の日本では、FOMMのEVに認可が下りなかったために、FOMMは海外事業に注力することになってしまった。
ただ、佐川急便はEVの調達を諦めていなかった。そこで、私はヤマダ電機を退職し、ASFを立ち上げて自分でEVの企画、製造に着手した。
ヤマダ電機時代から、ビジネスに必要なのはスピード感と価格サービスだと考えていた。
世界は脱炭素化に向けて急激に動いており、EVを出すならチャンスは今しかない。2、3年後ではもう遅い。この考えとスピード感に賛同し、実現してくれるパートナーとして選んだのが広西汽車集団傘下の柳州五菱汽車(五菱)だった。他にもいくつかのメーカーと交渉したが、こちらが求める価格と性能を迅速に提供してくれたのが五菱だった。佐川急便への納車は2022年9月を予定。
佐川以外からも打診
当社がEVを企業に売り込む際には、「今使用している軽自動車よりも購入費、年間の維持費などをトータルで必ず安く提供できる」という点をアピールしている。
SDGs(持続可能な開発目標)に注目する企業は多く、「環境に優しい」というイメージが求められているが、EVも高価格では売れない。人々が最も求めているのは「価格サービス」であることはヤマダ電機時代に実感していた。
幸いにも事業の滑り出しは好調で、佐川急便以外にも複数の企業から当社の小型EVを導入したい、という打診がある。
6月30日にはASF創業時のパートナーである大手商社の双日から増資と資本提携の強化、さらにコスモ石油マーケティングとの資本業務提携も発表した。これにより業務用小型EVの生産だけではなく、コスモ石油のリースやカーシェアリングサービスを通した一般利用者向けへの提供も可能となる。
今、自動車業界はEV化という大きな変遷のただ中にある。当社のようなベンチャーでも、チャンスを逃さない機動力があれば、十分大企業に太刀打ちできる。
今後はEVの製造だけではなく、メンテナンス、充電設備など総合的にサポートできるワンストップサービスを目指すことになるだろう。
定年間近になってヤマダ電機という大企業を退職し、一から事業を始めた理由は、何か世の中の役に立つことがしたかったからだ。ASFは、今はまだ小さい会社だが、EVの「ビジネスリース」という世界を大きく動かしたと自負している。24年には上場を予定している。「夢のある経営」を続けていきたい。
■人物略歴
いいづか・ひろやす
1965年生まれ、1985年にヤマダ電機入社。2008年同社副社長に就任。ヤマダ電機での35年間でIT(社内システムや顧客ポイントカードなど)推進などの新規事業立ち上げに携わる。20年同社を退社しASFを設立。