世界最高加速のハイパーEVでテスラを本気にさせたのは大阪の技術系人材派遣会社
注目企業3 アスパーク(大阪市)
吉田真教・アスパーク社長 「自動車の“プロではない”から実現できた」
当社の企業理念は「世界一、面白い会社」であること。技術系の派遣会社ということで、さまざまな分野の知識を持つ社員がおり、その知識を集約し発信するためのツールとしてEV開発に着手した。
最初から「世界最速」を目指していたのではなく、車体デザインから入り、ターゲットを設定する上で速度が選ばれた。もちろん簡単に実現したわけではなく、シミュレーション上では可能だったが実際の走行実験を繰り返し行うことで理想に近づけていった。
成功した理由は、自動車のプロではない技術者集団だった、という点。自動車メーカーが数年かけて行うことを、うちは数カ月で行ってきた。要は遊び心で、EVをラジコンカーの延長のように考え、そこに実際の道路規制に必要な安全性能や加速機能などを加えていった。
実現までには常にクリアすべき課題があったが、社員は皆楽しみながら開発を進めてきた。パートナーにイタリアの会社を選んだのは、当社が求めるスピード感に対応しようというチャレンジ精神があったためだ。
OWLプロジェクトを立ち上げたことで共にチャレンジしたい、という入社希望も増え、世の中に新しい価値観、サービスを提供しよう、という社内の士気も上がった。
今後の目標はまず最初の50台を売り切ること、その後も別の車を開発し、EV事業は継続する予定だ。ただし量販車に進出するつもりはなく、OWLよりも少し価格は下がるかもしれないが、新しいアピールポイントを持つEVを世に出していきたい。
(土方細秩子・ジャーナリスト)
◆OWL
SPEC
航続距離:450キロメートル 電費(km/kWh=1kWhで走る距離):非公開 最高速度(時速):400キロメートル 全長×全幅×全高(ミリメートル):4791×1935×993 重量:1900キログラム 乗車定員:2人 価格:290万ユーロ(約3億8000万円) 充電方法:高速充電対応 販売地域:欧州、北米、アジア、中東
2秒で時速60マイル到達の世界最高加速を実現
2012年にアスパークが企画した「OWL(アウル)」は、17年に独モーターショーでコンセプトカーが発表された。18年2月には、0-60マイル(停止状態から時速60マイル=約96キロメートル到達)で2秒を切った。これはガソリン車を含め世界初だ。21年より限定50台で全世界で発売が始まった。
炭素繊維製のモノコックボディーの重量は、わずか120キログラム。そこに「世界で最もパワフルなモーター」4基を組み込み、2012馬力と世界最高。デザイン、設計はアスパーク、製造はイタリアのマニファットゥーラ・アウトモビリ・トリノ社が担当している。
(土方細秩子)
■人物略歴
よしだ・まさのり
1972年生まれ、奈良県出身。京都大学大学院地球環境科学科修了。大手人材派遣会社を経て2005年にアスパーク設立。技術系人材派遣を行う傍ら、新規事業を開拓。EV開発もその一環。