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激変する住宅不動産業界で生き抜くための「2つの条件」とは

住宅に対する消費者ニーズは大きく変化している
住宅に対する消費者ニーズは大きく変化している

「リーマン・ショックの再来か?」そう思わせるのに十分なほど、2020年はコロナウイルスが猛威を振るった。住宅不動産業界も例外ではないものの、昨年5月の段階で既に需要が回復に向かうなど、他の業界とは違った動きを見せている。この業界ではいま一体何が起こっているのか。激変する時代を生き抜くために何が必要なのか――。船井総合研究所の経営者向けウェブメディア「社長online」よりお届けする。

コロナ禍でも自粛にはならなかった住宅市場

 日本は4月の緊急事態宣言から本格的に自粛ムードに突入。全国の住宅会社はイベントの実施も叶わず、集客できない状態にありました。ところが、自粛ムードは決して長くは続かず、5月以降、客足は徐々に戻ってきたのです。

 下のグラフはコンサルティング先の住宅会社の集客平均値の推移をまとめたものです。やはり4月は例年と比べて大幅に減っています。ただ、5月以降は一気に例年並みへと回復しています。その会社も、4月は不安でいっぱいでしたが、それ以降は特に大きな影響が見られず、ほっとしているといいます。

船井総研のコンサルティング先の住宅会社の集客平均値の推移
船井総研のコンサルティング先の住宅会社の集客平均値の推移

郊外移住の「検討」、オンライン商談の広がり

 コロナ禍が住宅業界にもたらしたものは、「集客の変化」以外にもいくつもありました。ここでは3つ取り上げたいと思います。

 まず1つ目は、都市部で働いている人の郊外移住の「検討」です。

 リモートワークが急拡大し、働く人の生活が大きく変わりました。オフィスに出勤しなくとも働くことができる方向へ社会全体が動き出そうとしています。この流れに乗って、郊外で家を購入しようとする動きが加速するのではないか、そのように言われていました。

 ただ、リモートワークに移行できた会社の割合は、わずか3割程度と言われています。ごく一部の企業のみがリモートワークに移っただけの現状を見ると、ネット上で郊外の物件を調べる動きは加速しましたが、住宅購入を「検討」したものの実行に移した人は、賃貸と違って現段階ではそう多くはありません。

 2つ目は、「オンライン商談」の取り組みが一気に広まったことです。

 体制を整えるところまでは首尾よく進んでいる会社は多くありますが、実際にそれが売上アップにつながったかというと、まだそういうわけではありません。しかし、今後注視すべき手法ではあります。

土地の仕入れ力が求められるように

 3つ目は、「土地の仕入れ力を求める動き」が大きく加速したことです。

 コロナ禍が長期的に続くことを見越して、仕入れを抑制、さらには自社で抱えていた土地等を早めに売ってしまう動きを取った会社もありました。

 しかし、これが取り越し苦労になってしまい、コロナ自粛が短期間で終わってしまったことと、消費者の動きが早くに戻ってきたことで、現在は土地不足に悩んでいる会社が多くあります。

 土地さえあれば家が売れる、だから建売を強化すべき、という短絡的な動きは危険ですが、現状では土地仕入れルートの確保は大きな課題になっています。

 元々、住宅業界は変化を拒む傾向にあります。そのため大きな動きがなかなか見られない業界だったのですが、このコロナ禍においては、否応なしに新しいチャレンジへの取り組みを後押しされる状況になっています。2020年は良い意味で、住宅業界の変化に拍車のかかった1年になったのではないでしょうか。

「小さな家」に注目集まる

「4LDKに4人家族が住む」が当たり前だった時代はすでに終わりを迎えようとしています。時代の変化とともに家族の在り方も構成人数も様々になってきました。そのため、これから住宅を求める消費者のニーズは以前に比べてかなり多様化しています。

 その中で今注目されているのが「平屋」です。平屋のニーズは年々上昇しており、2020年においては新築住宅全体の10%以上が平屋となっています。特にコンパクトなサイズの平屋が人気を集めています。

 この流れと同様に、「小さな家」「小人数家族のための家」も、注目を集めています。

 これは、必ずしも資金がないから購入可能な家のサイズが小さくなった、という理由だけではありません。前述のとおり、家族の在り方が変わったことで暮らし方へのニーズが多様化しているからです。

消費者ニーズを捉える必要性が増した

 従来、住宅会社では、来場した消費者のニーズに合わせて自由設計やオーダーメイドで家を提案してきました。これからもそれが無くなるわけではありませんが、この多様化ニーズに対する住宅会社が求められる対応は、ただ単に多様な住宅を「建てられる」かどうかという技術的な問題ではなくなっています。

 コロナ禍での「おうち時間」の使い方をはじめ、モノを購入する際の「検討」に消費者は多大な時間をかけるようになりました。お分かりのとおり、今の消費者がまず取る行動として、ネット検索があります。そのため以前よりも住宅についても、消費者が「調べる」時間が長くなりました。

 その消費者のニーズが多様化していることを考えると、情報取集をしている消費者の目に留まる工夫をしていかなければなりません。そのためには総合的な住宅商品ジャンルの取り扱い方では消費者が素通りしてしまいかねません。消費者ニーズに対応したピンポイントなジャンルを専門的に取り扱うブランドのアピールは、これまで以上に明確なものが求められていくでしょう。

 この消費者のニーズを掴むこと、そしてそれに応えられるように、日々私たちもお伝えしている「専門店」のさらに上を行くブランドの構築、これらに対してより早く取り組んでいる会社が売上を伸ばし始めています。

船井総合研究所の「社長online」(こちらをクリックすると同サイトにジャンプします

業界地図が塗り替わる中で生き残るための2つの条件とは

 消費者ニーズが変化していることと同時に、住宅業界自体も変化のタイミングを迎えています。

 住宅は戦後のビジネス、つまり高度経済成長期の波に乗り、団塊世代、団塊ジュニア世代とともに成長してきたものです。団塊世代が住宅業界を牽引し、その次の世代である団塊ジュニア世代もまた、住宅を買う、つまり需要の高まりとともに住宅業界は大きくなりました。

 しかし、今は人口と需要の静まりとともに徐々に住宅着工棟数も減少傾向にあります。これを考慮すると、住宅業界は今、まさに大きな曲がり角を迎えようとしていると言えます。

 この局面において、住宅業界では様々な動きが出てきています。例えば、ヤマダ電機のM&Aによる住宅業界への本格参入。さらには団塊世代経営者が立ち上げた会社の後継者問題から、早期リタイアをする経営者が出始めるなど、今までとは違った動きも見られるようになりました。

 新規参入をはじめる異業種企業が出始め、より競争が激化する中で生き残るためには、何をしていかなければならないのでしょうか。生き残るための条件は大きく2つあります。

 1つ目は、「高収益体質への転換」です。今までの住宅業界は売上至上主義でしたが、今後はしっかり利益を取れる体質にしていかなければなりません。このコロナ禍でもそうですが、利益がなければ危機的状況への対応もままならず、仕入れも十分にできません。

 2つ目は、さらに高度なレベルの「低価格×高品質住宅」を提供できる体制づくりです。

 現在も住宅は売れていますが、それは所得が向上したからではなく、むしろその逆です。今後は、住宅を購入する消費者のボリュームゾーンの家にかけられる予算は低下が続きます。

しかし、これからの住宅には地球規模での環境課題への対応や進化するデジタル環境への適合、繰り返し発生する自然災害への対応は必須であり、なおかつ従来以上に住み心地が求められるようになります。つまり、さらなる「低価格×高品質」の商品開発に拍車がかかることが予想されます。

 このような品質の向上を、価格を上げることなく実現し、かつ経営の資源としての利益を確保するためには、従来唱えられてきた「仕入れコストの見直し」だけではすでに限界です。今まであまりメスを入れられることのなかった、建築現場における生産性アップのためのDX・効率化への挑戦を一気に本格化するべき時代に突入したのです。

 長く続いていた、「大工が建てる家づくり」という歴史からの脱却がそろそろ必要な時期に差し掛かっています。

 すでに動き始めているものとして、

・住宅の工場生産化を推進する大型パネル工法

・現場監督業務の少人化、もしくは監督ゼロを推進する業務効率化

・紙とFAXからデータ管理体制への移行

などがあり、これらはすでに実用段階で成果が出始めています。

 変化が遅れていた住宅業界の効率化において、いち早く新たな動きを始められるかどうかが、今後生き残るための大きなカギとなるでしょう。

(船井総合研究所 第二経営支援本部 本部長 伊藤嘉彦)

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