週刊エコノミスト Online 2021年の経営者
中小企業のデジタル化支援に活路 山下良則・リコー社長
中小企業のデジタル化支援に活路
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)
── 2021年3月期は営業損益が454億円の赤字でした。やはり新型コロナウイルスの影響ですか。
山下 当社の主力事業は複写機、複合機などの販売とプリンティング(印刷)による消耗品(トナー)の販売です。印刷量が落ち込むと収益性の高いトナーの販売が減るので、直接利益に響きます。昨年3月ごろから新型コロナの感染拡大が深刻になり、日本では緊急事態宣言が、米国や英国でもロックダウン(都市封鎖)が発動され、オフィスへの出社が減少。それに伴い昨年7月ごろまでは印刷量も急減しました。(2021年の経営者)
日本では前年比3割程度の落ち込みにとどまりましたが、半減した国もあります。ただ、米グーグルが集計している世界各国の出社状況を示すデータと印刷量には、昨年夏までは強い相関関係があったのですが、年明けごろには米国や英国ではロックダウンされていてもプリント量は回復する傾向がみられます。
── なぜでしょうか。
山下 出社する人が他の社員の印刷も引き受ける役割分担が広がったという要因があったようです。加えて、当社はアウトソーシング(業務の外部委託)を引き受けるビジネスを手掛けており、その効果もあると思います。顧客の事業所にプリンティングセンターを設置しており、米国だけで約2000カ所。アマゾンも当社の顧客で、同社の60カ所で印刷作業を代行したり、届いた郵便物を仕分けしています。労働集約的な業務であるとはいえ、顧客の業務フローの一部に入ることは、将来の事業拡張につながるので重視しています。
── 印刷量は元に戻りますか。
山下 21年度はコロナ禍以前の水準には戻らないとみています。19年度と比較して印刷量が15~20%落ち込んでも、22年度には営業利益1000億円を出そうと計画しています。ペーパーレス化の流れは変えられず、印刷量自体は年率4~5%のペースで落ち込んでいます。
── そのためにデジタルサービス会社への移行を掲げています。
山下 従来は紙で出力していた文書を電子データ化してクラウドコンピューター上で処理する動きが急激に進んでいます。従って、当社はクラウド上の業務フローの中に入り込んで、ITやソフトウエアを駆使して課題を解決するデジタルサービスに商機と収益源を見いだしていく必要があります。3月に発表した中期経営計画では、22年度にはデジタルサービスが営業利益でプリンティングを追い抜き、25年度で営業利益の過半を稼ぐ道筋を示しました。
── どのように実現しますか。
山下 日本では、システム開発会社に委託して事務作業の流れをデジタル化しようとすると、数千万円から数億円の開発費がかかります。中小企業は負担できないし、そこまで複雑な業務をしているわけではありません。そこで、当社の顧客基盤である中小企業向けにソフトウエアをパッケージ化して安価に販売しています。建設、不動産、製造、福祉・介護など9業種を対象に147のパッケージを提案しています。17年10月に発売し、今年3月までに累計14万本を販売しました。
複合機はOEM供給も
── 複合機の性能が成熟化しています。機器で勝ち残るための方策は。
山下 プリントする機能は汎用(はんよう)品化して、プリント量も年々落ち込んでいきます。一昔前に比べて耐久性も上がっているので買い替え期間も長くなり、複合機の必要台数はこれから減るでしょう。当社はA3サイズの紙に対応する複合機が世界シェアトップです。高い技術力は当社の競争力の源泉であり、これまで競合他社に売ることは絶対にしなかったのですが、方針を変え、今後は競争力を失ったメーカー向けに当社が相手先ブランドの生産(OEM)で供給することもあるでしょう。
── コンパクトデジタルカメラ「GR」と一眼レフの「ペンタックス」などのブランドがありますが、カメラ市場は厳しい状況です。
山下 販売台数を追うのではなく、欲しいと思う消費者に届けるように方針を転換しています。ペンタックスの最新の一眼レフは過去よりもシェアは伸びていますが、ミラーレスカメラとの競争があります。GRは明るいレンズが特徴で、プロカメラマンのセカンド機として人気があります。しっかりとブランドを残す作戦を取っていこうと考えています。
── 今年3月に1000億円という巨額の自社株買い実施を発表しました。
山下 19年度までの前経営計画で成長分野に2000億円投資すると掲げましたが、結局は450億円程度にとどまりました。そこで、昨年2月に1000億円の株主還元を実施すると公表したのですが、コロナ禍で凍結。今年3月に新中計も発表し、約束通り還元を実施することにしました。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q これまでの仕事でピンチだったことは
A 入社6年目、上司の理不尽な指示に耐えかねてその上の部長に「会社を辞めます」と伝えたことです。部長に慰留されて考え直しました。
Q 「好きな本」は
A 童門冬二の『上杉鷹山』です。鷹山は「愛の政治家」だと感じる素晴らしい人物。強く影響を受けました。
Q 休日の過ごし方
A 英国駐在中に庭いじりが好きになりました。趣味は小唄です。春日流の先生に習っています。
■人物略歴
山下良則(やました・よしのり)
1957年生まれ、兵庫県出身。兵庫県立北条高校卒、広島大学工学部卒業。80年リコー入社。2011年4月常務執行役員、専務執行役員、副社長を経て17年4月より現職。63歳。
事業内容:複合機など事務機器の製造販売、ソフト、ソリューションサービスの提供など
本社所在地:東京都大田区
設立:1936年2月
資本金:1353億円
従業員数:8万1184人(2021年3月末、連結)
業績:(21年3月期、連結)
売上高:1兆6820億円
営業損益:454億2900万円の赤字