週刊エコノミスト Onlineワイドインタビュー問答有用

ユーチューブで法話=横田南嶺・臨済宗円覚寺派管長、花園大学総長

辻説法といっても穏やかな語り口調で 撮影=中園敦二
辻説法といっても穏やかな語り口調で 撮影=中園敦二

ユーチューブで法話=横田南嶺・臨済宗円覚寺派管長、花園大学総長/855 

 新型コロナウイルス下で、鎌倉市の名刹(めいさつ)、円覚寺(えんがくじ)派のトップで大学の総長が、インターネットの動画投稿サイト「ユーチューブ」を通して毎日、「辻説法」をしている。チャンネル登録者数は1万人を超えた。

(聞き手=中園敦二・編集部)

「背筋を真っすぐ静かに呼吸すれば微笑みこぼれ」

「腰骨を立てて、いつでも立ち上がる気持ちが大切。身体で実践するのが禅です」

── ユーチューブでの法話配信のきっかけは。

横田 実はコロナ禍前になるのですが、知り合いの寺で3歳になる子どもがテレビではなく、ユーチューブに夢中になっているのを見て驚きました。現代の辻説法の場はユーチューブなのかもしれない、と考えるようになったのです。

 その後、コロナ感染が拡大して人が集まることが難しい中、禅僧として何ができるのか考えました。配信の内容は、座禅の仕方を解説したものや、対談、日々の心の持ちようについてのものまでさまざまです。(ワイドインタビュー問答有用)

救い、癒やし求める現代人

── 反応はどうですか。

横田 当初は周囲から「管長自らユーチューブなんて」と反対されました。でも今年7月17日時点で358本、総視聴回数は161万回、総再生時間は27万時間となりました。全国の方から手紙をもらうようになり、返信するようにしています。動画ではなく、音声だけにすることもあるのですが、「通勤時に聞いています」というお便りもいただきます。社会が混沌(こんとん)とし、疲れが人々の心に重くのしかかり、救いや癒やしを求めているのでしょう。

 横田管長は時折、関西弁を交えながら抑揚のある穏やかな口調で話すが、長年の修行を感じさせる一筋の緊張感も伝わってくる。法話の最後には必ず、瞑想(めいそう)の時間を1分程度設ける。

「腰骨を立てて背筋を真っすぐにして。口からひと息強く吐いて、胸に抱えている思いや煩いも全部吐き出す気持ちで。そして鼻から新鮮な空気が入ってきて身体の隅々まで行き渡っていくのを感じ、思わず『ありがたいな』と微笑(ほほえ)みがこぼれてしまう。静かに呼吸を観察しましょう」と話す。

── 実家がお寺だったので、仏教に興味を持ったのですか。

横田 実家は代々、鍬(くわ)や包丁を造る鍛冶屋(鉄工所)で、私は男4人兄弟の2番目でした。私の記憶は2歳の時の祖父の火葬シーンから始まります。レンガ造りのすすけたかまどに棺(ひつぎ)が収められ、「バタン」と鉄の扉が閉められて点火するような音が聞こえました。そんな光景が記憶に刻み込まれています。

 火葬場の煙突から白い煙が上がっているのが見えました。「おじいちゃんが煙になって空に帰って行ったよ」と母から言われました。「人は死んだらどこに行くのかな」。以後、ずっと私の心の奥底にこの疑問が残りました。

 初盆で精霊流しをしました。母は「おじいちゃんは舟に乗って、あちらの世に帰って行くんだよ」と言ったのですが、素人が作った畳2枚ほどの舟は2メートルも進まないうちに、ズブズブと沈んでしまいました。

「人間は死ぬ」「大人の言うことはあてにならない」

 これが私の人生観の原点ですよ。死を意識しながら、何ごとも自分で考えるようになったのではないかと思います。

同級生の死で心に火

── どんな子どもだったのですか。

横田 小学3年生のころ、仲のいい同級生が急性白血病で亡くなりました。私が弔辞を読みました。これで、私の心に火がつきました。「死はいつ訪れるか分からない。ぼやぼやしてはいられない」と。私は学校や近くの図書館へ行って、「…

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