経済・企業 日本株 上昇相場へ
リスク2 中国異変 投資活動が示唆する減速 製造業下振れで日本株に重し=藤代宏一
中国経済の先行指標として有用な指数である「クレジット・インパルス」に異変が起きている。(日本株 上昇相場へ)
この指標は中国国内の与信(新規貸し出し)の伸び率とGDP(国内総生産)成長率を比較したもので、その変化は、民間の投資活動のほか、中国政府の政策態度を推し量る一助となる。
そのクレジット・インパルスが、2020年秋にピークアウトした後、21年に入ってからは急低下し、過去数カ月はマイナス領域に沈んでいる。
例えば中国の政策当局が景気対策に積極的になれば、緩和的な金融政策、拡張的な財政政策、規制緩和などを通じて民間の経済活動が加速したり地方政府のプロジェクトが動き出したりする。その際、与信量(貸し出し)は経済成長率を上回るペースで加速し、クレジット・インパルスは上昇する。
過去数カ月、この指標がマイナスで推移しているのは経済活動が減速基調にあることを意味しているが、それにもかかわらず政府が景気刺激に動いていない可能性を示唆する。こうした状況で当局は7月に預金準備率を0.5%引き下げ、金融面から景気を支援する構えをみせた。こうした措置が奏功すれば15〜16年のような景気の急減速は回避できると期待される。
世界の生産活動に影響
とはいえ、この指標が世界の生産活動を反映する「グローバル製造業PMI(購買担当者景気指数)」に約1年の先行性を有することを考えると、やはり今後は世界的な景気減速を意識せざるを得ない。そして不気味なことにグローバル製造業PMIは日本株との連動性が強い。00年以降、両者のサイクルはおおむね一致しており、コロナ禍においてもその関係が大きく崩れることはなかった。
この要因として株価指数に占める製造業の割合が高いことがあるだろう。GDPベースで見た製造業のウエートは2割程度に過ぎないが、大企業の業績が集約される株価指数においてその存在感は大きく、日経平均株価の採用銘柄の約6割は製造業が占める。それゆえ、世界の生産活動が鈍化すれば、当然のことながら日本株にも影響が及び、株価の重しになる。
ただし、今後グローバル製造業PMIが低下しても、直ちに日本株も下向きのカーブを描くとは限らない点には留意が必要だ。
世界の景気サイクルはコロナ禍で大きくゆがめられ、リバウンドのタイミングは「中国→米国→欧州→日本」と波及するためタイムラグがある。コロナ禍のリバウンドが最も早く訪れた中国はその減速も早かったが、日本はこれから本格的なリバウンド局面に入る。そうしたタイムラグが中国経済への懸念を打ち消す可能性もある。
(藤代宏一・第一生命経済研究所主任エコノミスト)