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恒大問題の処理が今後の中国経済の行方を左右する=梅原直樹

    急激な経営拡大路線が過剰債務を生み出した(江蘇省で建設中の高層マンション)Bloomberg
    急激な経営拡大路線が過剰債務を生み出した(江蘇省で建設中の高層マンション)Bloomberg

     中国恒大集団 (チャイナ・エバーグランデ・グループ)の債務問題については、昨年9月にマンションの30%割引販売を行った頃から、資金繰りが悪化しているとのうわさが増え始め、今年8月末に公表された上半期業績報告書で、それが裏付けられた。同社は9月半ばに、ホームページでうわさを否定しつつも、「未曽有の困難に遭遇している」ことも明らかにしている。これ以降、同社の株価とオフショア債券(国際金融市場で発行した債券)価格は下落したままだ。

    法的整理も

     恒大の2021年6月現在の負債総額は1・9兆元(33兆円)で、うち有利子負債が0・57億元(8・2兆円)。総資産は2・4兆元(42兆円)で、負債総額比率は82・7%という高レバレッジ経営だ。同社は国有商業銀行ほか多数の金融機関から資金を借り入れており、一部は国内社債や外債で資金を調達している。簿外債務も指摘されており、再建は前途多難だ。

     中国政府が直接、同社を資金支援する公算は低い。中国政府は恒大集団自体の存続に強い関心はなく、同社自らの再建努力が最終的に行き詰まれば、法的な整理に移行すると見られる。その前に、政府は同社を実質的な管理下に置き、債権・債務の整理に関する支援や方向付けを行い、社会不安を抑え、金融システムの安定の維持を図るだろう。

     その時に懸案となるのが、オフショアで発行している外貨建て社債だ。政府も外貨建て社債のデフォルト(債務不履行)は好ましくないと考えているが、基本的には恒大に任せる姿勢を維持すると思われる。もちろん、デフォルトが決定すれば、法的整理への移行時期が早まることになり、政府は動きにくくなる。従って、時間を稼ぐためにも、政府は銀行に資金繰り支援の指示を出し、デフォルト時期の先延ばしを図る可能性がある。

    不動産はGDPの4分の1

     今回の恒大問題は、単に同社だけの問題ではない。中国経済全体を今後、どう運営していくのか。そして、中国共産党の指導体制のあり方にも影響する問題といえる。その構図を見てみたい。

     多くの専門家が分析しているように、中国の不動産業界は過去約25年にわたって、同国の経済成長の主要なけん引役だった。1994年の税制改正以来、地方政府にとって、不動産使用権の売却益は、不可欠な収入源になっており、経済成長目標を達成するためのベースになっていた。不動産業界は建設業や電設業などの幅広い裾野産業を持ち、これらを含めれば、中国の国内総生産(GDP)の約4分の1を占める重要産業となっている。不動産業界の過剰債務問題に深く切り込めば、経済成長の急速な鈍化を招きかねない。

    不動産神話

     中国の不動産価格は長期的に上昇傾向を続けてきたが、「ゴーストタウン」などの不稼働不動産の問題が深刻化する一方で、不動産価格は上昇し続けるとの"神話"が庶民に広がり、多くの人が「不動産は買えばいつかはもうかる」と信じるようになった。不動産の投資商品化が進み、住宅ローンによる資金流入も増加。マクロ面では、債務の増加速度がGDPの成長速度を上回る状態が続き(図3)、社会面では不動産所有の有無が貧富の差のバロメーターになり始めた。

     12年に発足した習近平指導部とって、こうした状況を野放しにしておくわけにはいかなかった。不動産業界の過剰債務問題もいつかは手を付けねばならない課題として認識しており、15年、政府は「供給側構造改革」を提唱。過剰生産能力の削減、不動産在庫削減と過剰債務の削減(デレバレッジ)を、最重要施策に据えた。党指導部としては、マクロ経済の健全性は重要であり、これが揺らげば自らの指導体制にも影響する。

    「住宅は投機の対象ではない」

     習近平指導部は16年、「房住不炒(住宅は住むためであり、投機対象ではない)」のスローガンを掲げ、不動産問題に取り組み始めた。不動産の投機熱を冷まし、業界の健全化を促すことが狙いだったが、具体的な取り組みは地方政府に委ねた。地方政府は土地供給をコントロールしながら、価格を安定化するよう求められたが、地方財政が土地売却頼みであったため、取り組みは中途半端に終わった。

     また、党指導部は19年夏には、不動産を短期的な景気刺激に利用しない方針も打ち出した。これは中国経済の運営上、大きな転換を意味する。

    習近平指導部は極めて難しい局面に陥っている
    習近平指導部は極めて難しい局面に陥っている

    シャドーバンキングの整理

     党指導部は、17年からの3年間を「三大攻堅戦」(三大堅塁攻略戦)とすることを掲げた。「三大堅塁」とは、貧困脱却、重大リスクの防止、環境対策で、中心は貧困脱却。20年までに絶対的貧困をなくし、「小康社会(少しゆとりのある社会)」を建設し、21年7月の中国共産党結党100周年を無事に迎える考えだった。

     また、金融部門のリスク防止も重要課題だった。17年夏に国務院に金融安定発展委員会が設置され、金融規制・監督における指導体制の強化が図られた。そして、銀行等の金融機関を介さず個人・中小企業向け融資をインターネット経由で行う「P2Pレンディング」などのシャドーバンキングの整理、ITプラットフォーム企業による金融サービスの規制強化が実施され、問題のある銀行のリストラも敢行された。この業界内改革は、デレバレッジの面でも成果を上げた。

     このように、重大リスク防止の取り組みが続く中で、19年以降は、不動産業界に端を発し金融システムに波及する重大リスクが注目されることになった。折しも20年は新型コロナ対策でデレバレッジが緩んでおり、締め直しが必要となっていた。

    「三道紅線」

     20年8月、政府は大手不動産デベロッパーを集めて「座談会」を開催し、「三道紅線」と呼ばれる規制導入案を提示した。これはデベロッパーの財務諸表に着目した規制で、貸借対照表の負債と関連した健全性を示す三つの指標を決め、その達成状況を有利子負債の増加率の上限にリンクさせるというものだ。

     また、政府は各銀行に対して、不動産向け融資の残高の上限も設定した。不動産業界への融資集中を回避する措置で、不動産業界への資金流入をいったん止めることで、デレバレッジを促進させるのが目的だ。これらの規制は21年から実施され、この結果、一部の不動産デベロッパーは厳しい資金繰りに追い込まれた。これまでに華夏幸福基業、恒大集団、花様年地産の各社が債務不履行、またはそれに準ずる状態に陥っている。

     だが、これは氷山の一角で、21年上半期時点で、上場大手デベロッパー100社のうち、「三道紅線」の3指標の中で三つとも達成できなかった企業が11社。同二つが18社。一つが36社あった。半数以上が改善を突き付けられた格好だ。

     全指標がクリアできても、有利子負債は前年比15%増までに制限され、3つとも未達ならば、有利子負債は一切増やせない。経営規模の拡大は困難となり、経営の自由度も下がり、レピュテーションリスク(ブランドイメージの低下)にもさらされるので、多くのデベロッパーが、バランスシート調整やリストラに取り組むことになった。今回の恒大集団の問題も、こうした一連の流れの中にあったわけである。

    中国政府のシナリオとは

    「三道紅線」と総量規制で、デベロッパーが資金繰り難に陥った場合、どのようなシナリオが想定されるのか。以下は筆者の推察だ。

     まず、ノンコア事業の資産売却などを行い、貸借対照表を改善するが、それができない場合は、民営企業であれば、戦略投資家を探して増資したり、合併を検討したりする。国有企業の場合は政府に支援を要請し、その管理下でリストラを進めることになる。恒大は民営企業だが規模が大きく、全国で事業活動をしているので、国有企業のアプローチを組み合わせた処理が考えられる。

     これらも不調に終わった場合、破産など法的措置に移る。清算となれば銀行貸し出しは不良債権化するが、政府は長らく銀行の自己資本を厚めに保つよう指導しており、不良債権の処理余力は大きいと考えられる。損失が発生しても、一定の時間をかければ金融システムの中で処理することが可能だ。

     各企業が「三道紅線」の期限となる23年ごろまで努力を続ければ、不動産業界の健全化が進み、デレバレッジも進み、金融システムへの悪影響の可能性は低下するだろう。不動産価格も他の政策手段との相乗効果で安定に向かい、中国経済はより持続可能な発展の方向に向かう。

    デベロッパー破綻増

     しかし、これはかなり楽観的なシナリオだ。実際には、足元の国内不動産取引は、買い手が様子見を決め込んで冷え込み始めており、これが長引けば、デベロッパーのキャッシュフローが悪化し、借り入れしようにも上限が課せられているため、可能な対策は、仕入れ先に負担を転嫁するぐらいしかない。デベロッパーや建設会社の破綻が増える可能性がある。

     当然、これは景気の下押し圧力になる。また、不動産価格の急落が起きれば、地方政府の土地入札が不調となり、地方政府の財政悪化にもつながる。こうした負の影響が重なれば、不動産だけでなく、中国経済全体に影響を及ぼし、マクロ経済の安定を損なう。

     政府が規制を一時的または局所的に緩めるかどうかは見通せない。習近平指導部は重要な党大会を22年に控えており、これまでの政策を大きく変更することには抵抗があろう。政策のかじ取りの難易度は高い。

    世界経済をけん引できず

     習近平指導部は、20年末から「反独占」や「資本の無秩序な拡大防止」を提唱した。確かに行き過ぎた資本主義的、拝金主義的な企業経営や、それに便乗する世間の風潮、価値観の変化は、党指導部にとっては看過できないものだろう。しかし、規制を過度に強めれば、民間の活力をそぐことになる。

     習近平総書記は22年秋の第20回党大会での再任と以降の留任を視野に入れて、毛沢東や鄧小平が度々口にしてきた「共同富裕(ともに豊かになる)」を「社会主義の本質的要求」として、改めて強調している。この理念が受け入れられ、主流になっていけば、中国の経済成長の基本路線は大転換する可能性がある。統制を重視した計画経済方向に振れて、社会は全体的に「左傾化」する。中国の経済発展を支えてきた不動産業も、財産税導入など「共同富裕」との調整が必要となるだろう。

     いずれにしても、不動産業界が中国の経済発展をけん引してきた力は失われ、経済成長の鈍化を促すことになる。中国経済の新たな発展モデルがどうなるかは「双循環」だけでは説明ができない。グローバル金融危機以降、中国は世界経済の成長をリードしてきたが、それは過去のものとなるかもしれない。

    (梅原 直樹 国際通貨研究所・開発経済調査部上席研究員)

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