経済・企業

ソフトバンクが巨額赤字転落で孫正義氏がやるべきは〝自社株買い〟でなく「第二のアリババ探し」

「真冬の嵐のど真ん中であります」と始めた孫正義氏(11月8日のソフトバンクGの中間決算会見)
「真冬の嵐のど真ん中であります」と始めた孫正義氏(11月8日のソフトバンクGの中間決算会見)

 地吹雪で真っ白となった一面の大地を背に、ソフトバンクグループ会長の孫正義氏は「真冬の嵐のど真ん中であります」と苦笑しながら、11月8日、2022年3月期第2四半期(中間)連結決算を発表した。わずか半年前の21年3月期決算で最終利益5兆円をたたき出し、40年前の創業の地・福岡市と大野城市にまたがる雑餉隈(ざっしょのくま)のセピア色の風景を背に、「踏切の向こうには夢がある」と自己実現を振り返ったのが幻のようだ。

ソフトバンクGの経営指標「NAV(時価純資産)」は半年前(21年3月末)の26兆1000億円から5兆円以上目減りした。
ソフトバンクGの経営指標「NAV(時価純資産)」は半年前(21年3月末)の26兆1000億円から5兆円以上目減りした。

5兆円も目減りした時価純資産

 4~9月期の最終利益は3635億円の黒字ではあるが、前年同期比80%減、金額にして1兆5000億円の減益だ。7~9月期でみれば、3979億円の赤字だ。

孫氏は「実質は大赤字」と述べ、経営指標「NAV(時価純資産)」は20兆9000億円(21年9月末)で、半年前(21年3月末)の26兆1000億円から5兆円以上目減りした。

「ソフトバンクグループは嵐の中に突入した」と、孫氏が語る以上に事態は深刻だ。

ビジョンファンドの地域別投資先の価値
ビジョンファンドの地域別投資先の価値

沽券にかかわる「上げ相場で減らした価値」

 ちょうと1年前、孫氏は新型コロナウイルス感染拡大で大赤字となった20年3月期の業績からの急回復を高らかに宣言した。この時の説明で、孫氏は20年9月末時点の日経平均株価やニューヨークダウ工業株30種平均、ナスダック総合指数が02年4月比でそれぞれ2・1倍、2・7倍、6・0倍になったのに対し、ソフトバンクGのNAVは157倍になったと胸を張った。

 この指標を前期に当てはめると、21年9月末の日経平均もダウもナスダックも1年前からさらに上昇している。つまり、上げ相場の株式市場で、ソフトバンクGはNAVを減らしたのだ。投資会社としての沽券に関わる成績だ。

アリババ創業者のジャック・マー氏=東京都文京区で2019年12月6日、喜屋武真之介撮影
アリババ創業者のジャック・マー氏=東京都文京区で2019年12月6日、喜屋武真之介撮影

アリババ株と一体だったソフトバンク

 理由は明白だ。かねてから指摘してきた中国リスクによって、ソフトバンクGの最大の投資成果だったアリババグループの株価が急落したためだ。

創業者で孫氏の盟友でもあるジャック・マー氏が20年10月、中国の規制当局を批判して以降、グループの成長の歯車は逆回転した。グループ傘下の電子決済サービス「アリペイ」を運営する「アント・グループ」は上場を延期させられた。国内10憶人の個人情報を集めるアリババグループを習近平国家主席が脅威とみなしたとも言われる。

 これ以降、成長性に疑問符がついたアリババの株価は急落した。孫氏は前期の決算会見で、自社のNAVに占めるアリババの割合が28%となり、20年9月末の58%から低下したとして、リスク分散をアピールした。だが、その下落分の大半はアリババ株がこの1年で半値近くまで下がったことが大きい。

中国の習近平国家主席=福岡静哉撮影
中国の習近平国家主席=福岡静哉撮影

ジャック・マーの「下放」と習力平の「共同富裕」で投資先を分散したが…

 マー氏が今後は教育に人生を捧げるとの書簡を週主席に送ったと、ロイターが伝えた。事実であれば、自主的な「下放」で自らをアリババグループと切り離そうとするマー氏の悲壮な思いが透けて見える。だが、「共同富裕」を掲げる週主席がIT企業への締め付けを緩める気配はない。中国の「独身の日」である11月11日のアリババのセールは今年、控えめに行われた。過去最高の売上高を更新したものの、伸び率はこの5年間で最低だった。当面、アリババの急成長は見込めそうになく、孫氏はラテンアメリカなど投資先の分散化を迫られた。

 ただ、ソフトバンクGの上場株投資運用子会社「NBノーススター」は前期、公正価値を半分以下に減らした。孫氏は自らの出資分で1500億円の損失が出たと明らかにした。10兆円の巨大ファンド「ビジョン・ファンド」は、半年前に上場益を上げた韓国のクーパンや中国の滴滴グローバルなどで評価損を計上しており、八方ふさがりの状態だ。

苦肉の策は効力の薄い“自社株買い”

 中間決算会見当日、孫氏は「ピンチはチャンス」として、1兆円の自社株買いを表明し、翌日のソフトバンクG株は上昇した。

だが、ソフトバンクGは昨年も2兆5000億円の自社株買いを行い、株価は1万円台を突破した後、直近は6000円台で低迷している。今年6月の株主総会で、「株主から自社株買い以外で株価を上げられない」と迫られた孫氏は「大概にして欲しい」「少し長い目で見ていただきたい」と反論していた。

市場の期待は「第二のアリババ」への投資

 前回と今回で計3兆5000億円の自社株買い資金があれば、第二のアリババを見つけ、投資する。それが市場の期待する投資家孫正義ではなかったか。

負債を減らし、1件当たりの投資額を絞り、投資の原資は既存の投資先から調達できると、孫氏は説明した。

決算会見の終わりで、孫氏は雪原に芽吹く緑の画像を背景にソフトバンクGの将来性を訴えた。安定した投資会社ソフトバンクGは孫氏の目指した「約束の地」なのだろうか。

(後藤逸郎・ジャーナリスト)

初出:「ソフトバンクは嵐の中にある」と語った孫正義氏に落胆した市場が本当はやって欲しかったこと(2021年11月12日)

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