翁永飆 Inagora(インアゴーラ)ホールディングス社長 ECで日本商品を中国に販売
中国では、安全・安心が売りの日本商品への信頼度は高い。日本の商品が巨大な中国市場でスムーズに販売できる仕組みを構築した。
(聞き手=和田肇・編集部)
中国の消費者が日本の商品を簡単に購入できる越境EC(電子商取引)のアプリ「豌豆公主(ワンドウ)」を運営しています。現在、1150のブランドと1万8500種類の日本商品を扱っています。売れ筋は日本のドラッグストアで扱う化粧品やヘルスケア商品が多く、中国の商品より価格が高くても品質面の安全性も高いため非常に人気があります。(挑戦者2021)
中国の消費者は、「豌豆公主」のアプリを直接、スマートフォンにダウンロードするか、またはアリババなど中国のネット通販サイトの中にある「豌豆公主」にアクセスして購入する仕組みです。SNS(交流サイト)や動画サイトからも同じようにアクセスできます。サイト内の日本商品の説明はすべて中国語で、支払いや決済も人民元で可能です。
日本の商品は当社が仕入れて販売しているので、日本企業にとっては当社の日本にある物流倉庫に商品を搬入するだけで済み、中国への通関手続きや現地での物流の手配も必要ありません。商品説明の中国語への翻訳も当社が代行し、中国の消費者の嗜好(しこう)に合うような商品宣伝のコンテンツ制作やマーケティング支援サービスも展開しています。
中国では近年、経済力が上がるとともに、消費者に健康志向や美容の意識が高まっていて、中国人は来日すると必ずドラッグストアで買い物をするほどです。また、今年3月には、中国大手ECサイト「天猫国際」に日本酒類専門サイトを開設し、中国で人気が高まっている日本酒を、商標をそのまま使用できるなど簡易な手続きで販売できるようになりました。
私は上海の高校を卒業後、日本の大学に留学しました。当時の日本はちょうどバブル時代。一方の中国は、改革・開放路線が始まったばかりでした。たくさんの日本企業が中国へ進出しようとしていた時期で、中国に視察に行く日本企業の通訳のアルバイトもしていました。そのまま学生ベンチャー企業を作ろうと思ったほどです。
ただ、一度は会社勤めをした方がよいと思い、1996年に伊藤忠商事に就職しました。いずれは起業するつもりだったので、上司には「5年で会社を辞めます」と伝え、実際に2000年に退職してIT関連のベンチャー企業を立ち上げます。その後もいくつかの会社を立ち上げて事業を展開する中、14年ごろに起きたのが訪日中国人の「爆買い」ブームでした。
東南アジアでも展開へ
そこで、日本の商品を中国でスムーズに販売できる仕組みができればと、14年12月に設立したのがInagora(インアゴーラ)です。ただ、通関事務や翻訳、販売・物流管理などに人手がかかるので、立ち上げ時から大変な事業でした。現在は日中のベンチャーキャピタルのほか、伊藤忠商事やSBIグループなどから出資を受けるほか、スギ薬局や金融グループの中国中信集団(CITIC)とも提携しています。
今後は東南アジア市場へも事業を拡大していきたいと思っており、昨年10月には東南アジアの大手ECサイト「Lazada(ラザダ)」を運営するアリババグループのラザダグループ(シンガポール)とも提携しました。中国市場で培ってきたノウハウやビジネスモデルは、東南アジアでもそもまま展開できるのです。
企業概要
事業内容:中国などで日本商品を販売する電子商取引事業
本社所在地:東京都新宿区
設立:2014年12月
資本金:4億6000万円
従業員数:280人(グループ全体)
■人物略歴
おう・えいひょう
1969年中国・上海市生まれ。地元の高校を卒業後、日本の大学に留学。96年横浜国立大学大学院電子情報工学研究科修士過程を修了後、伊藤忠商事に初の新卒外国人総合職として入社。2000年に伊藤忠商事を退職し、4度の企業立ち上げ後、14年にインアゴーラを設立。51歳。