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マイナンバー口座ひも付け「株式と預金」の意外な落差<経済プレミア>

     
     

     マイナンバー制度が始まって近く丸6年。マイナンバーと金融口座とのひも付けが新たな局面を迎えている。預金口座とのひも付けは、コロナ対応給付金の支給が遅れたことを教訓に新たな管理制度が来年度に動き出すが、義務化は見送られた。一方、証券口座とのひも付けは今年末に完了する見通しだ。なぜ、こうした差が生じたのだろうか。口座のひも付けは、国民感情を考慮してナイーブに取り扱われてきた経緯があり、状況がわかりにくいという人は多い。現状と課題を整理した。

    証券口座は「ひも付け代行」サービスも

     マイナンバーはすべての人に一人一つの番号を割り振る制度で2016年に始まった。当面、利用は「社会保障・税・災害」の3分野に限定するが、将来は幅広い行政分野や官民連携での利用を念頭に置く。

     制度の目的は、行政手続きを合理化し国民の利便性を高めるとともに、社会保障や税の「給付と負担」の公平性を保つことにある。そのためには、所得や資産を正しく把握する必要があり、金融口座とマイナンバーのひも付けは既定路線だ。

    証券口座の所有者にはマイナンバー登録を義務付けている=日本証券業協会などが作製したパンフレット
    証券口座の所有者にはマイナンバー登録を義務付けている=日本証券業協会などが作製したパンフレット

     ただし、金融分野ごとに温度差がある。証券口座については、制度導入時から所有者にマイナンバー登録を義務づけた。16年以降に口座を開設する人は登録が必須で、15年までに開設した既存口座は18年までの登録を求めた。

     だが、罰則はなく、既存口座で登録したのは18年6月で41%と低迷した。そこで19年度税制改正で登録期限を21年までに延長した。

     その期限まで2カ月を切った。まだ登録していない人はどうなるのだろうか。

     実は、登録しなくてもすでに問題はなくなった。未登録の場合、証券会社が「証券保管振替機構(ほふり)」を通じてマイナンバーを取得できる法的措置ができているためだ。

     株式売買する際は、その都度、株券名義を書き換えるわけではなく、所有権を電子管理している。ほふりはその管理機関だ。新たな措置は、証券会社が口座のマイナンバーをほふりに請求すると、ほふりは、マイナンバー事務を行う「地方公共団体情報システム機構」に照会し、証券会社に伝える仕組みだ。

     この措置は、未登録者の手をわずらわせず、証券会社が登録代行する「サービス」という位置付けだ。これを利用し、証券会社はほぼ登録を終えた状況だ。

     一方、預金口座は事情が異なる。

     制度導入時は扱いを先送りし、法改正で18年に口座とマイナンバーをひも付ける「口座付番制度」を導入し、金融機関にはマイナンバーで検索できるよう口座管理することを義務付けた。しかし、預金者には登録を義務付けず、登録状況を踏まえて3年後をめどに制度を見直すと先送りした。

     全銀協ガイドラインは、金融機関が口座開設などの手続きを受け付ける際、預金者にマイナンバーの案内をすることを期待するとしたが、対応は各金融機関の判断に委ねた。

     こうした結果、ひも付けはほとんど進んでいない。

    預金者にはマイナンバーの届け出協力を求めるにとどまる=全国銀行協会などが作製したポスター
    預金者にはマイナンバーの届け出協力を求めるにとどまる=全国銀行協会などが作製したポスター

    証券と預金の差「三つの理由」

     なぜ、証券と預金で扱いにこれほど差があるのか。理由は主に三つだ。

     第一に課税の違いだ。証券には、複数口座間で利益と損失を相殺できる損益通算制度があり、国税当局は一人一人の口座を正しく把握する必要がある。一方、預金の利子は源泉分離課税で、口座ごとに課税が完結するため、その必要が薄い。

     第二に個人口座数の差だ。14年の政府税制調査会で、金融機関側は、預金口座は約13億と膨大で、急速にひも付けるにはコストが過大になるという懸念を示した。一方、証券口座は2166万口座(14年3月)にとどまり、証券会社の負担はそれほど重くないとみなされた。

     第三に国民の意識だ。預金口座のひも付けには「中身が国に筒抜けになる」と漠然と不安に感じる人が少なくない。それを払拭(ふっしょく)せずに、ひも付けを進めればマイナンバー制度自体への不信につながりかねない。

     1980年代には、少額貯蓄非課税制度(マル優)の不正利用を防ぐため、口座利用者を番号管理する「グリーンカード制度」を導入しようとしたが、大反対で実施を断念した経緯がある。その教訓から、政府は預金口座のひも付けにはことさら慎重になっている。

     ここで面白いのは「中身を知られたくない」のは証券口座でも同じだと考えられるのに、その配慮はないことだ。日本では「証券取引は富裕層が行うもの」という見方が根強く、証券口座とのひも付けには反対する動きがほとんどないという事情がありそうだ。

    給付金支給で22年度から新制度

     だが、コロナ禍で風向きは変わった。特別定額給付金の支給では、マイナンバーを利用した申請システムに不備があり、給付金を振り込む預金口座のチェックにも膨大な手間がかかることが問題になった。社会保障や納税のため預金口座と個人番号をひも付ける欧米各国は給付金支給がスムーズで、一転して日本の「遅れ」が批判を浴びた。

     5月に成立したデジタル改革関連法は、これに対応する新制度を盛り込んだ。ひも付けを希望する人は、金融機関の窓口やマイナンバーカードのポータルサイト「マイナポータル」で登録すれば、緊急時の給付金や児童手当などの支給で利用できるようになる。22年度に実施の見通しだ。

     また、金融機関は、口座開設などの手続きの際は預金者にひも付けの意思を確認しなければならない。

     新制度では、国民1人1口座をマイナンバーとひも付ける義務も検討したが、現実にひも付けが進む方法を優先した結果、義務付けは見送ったという。

     将来はどうなるだろうか。社会保障と税の公平性という観点からは、将来、すべての金融口座とマイナンバーをひも付ける方針は揺るがないだろう。

     口座のひも付けが進めば、社会保障の所得再分配を効果的に行うことが可能になる。所得の規模や変化を正しくつかむことで、ゆとりのある人は負担を増やし、困っている人には給付を増やすことができる。公的支援があっても仕組みを知らなかったり申請をためらったりする人がいても、率先して手を差し伸べる「プッシュ型支援」も可能だ。

     また、医療・介護・年金など社会保険料は原則、所得に応じた負担だが、所得はなくても資産が多く豊かな生活をしている人もいる。資産が把握できれば「負担と給付」のバランスを見直すこともできる。

     「口座の中身を見られてしまう」という懸念には誤解が大きい。マイナンバーは利用範囲を限定しており、預金口座をひも付けても、法的根拠がなければ、政府がその中身を見ることはできない。逆に、ひも付けがない口座でも、税務調査の必要があれば、国税当局が内容を把握することはできる。

     ひも付けを進めるには、こうした点を整理し、国民の理解を得る努力が必要になってくるだろう。

    (渡辺精一・経済プレミア編集部)

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