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“1足3850円”埼玉行田「斬新スリッパ」が売れる理由<経済プレミア>

    埼玉県行田市南河原の新ブランド「ミナミカワラ・スリッパ」の六大陸(州)シリーズ。派手な柄が人気を集める=2021年10月14日、田中学撮影
    埼玉県行田市南河原の新ブランド「ミナミカワラ・スリッパ」の六大陸(州)シリーズ。派手な柄が人気を集める=2021年10月14日、田中学撮影

    スリッパ産地の復活への道

     かつて日本一の生産量を誇ったスリッパ産地で、地場産業復活の狼煙(のろし)が上がっている。埼玉県行田市南河原の新ブランド「ミナミカワラ・スリッパ」だ。復活の第1弾として、アフリカと南米・ブラジルの色彩鮮やかな伝統柄を用いた「六大陸(州)」シリーズを2021年1月から販売。東京都などの百貨店や専門店で期間限定の販売が主だが、売れ行きが好調だ。一体、どんなスリッパなのか。

    コロナの打撃を埋める売れ行き

     「六大陸(州)」シリーズは柄が派手で、ひときわ目を引くスリッパだ。アフリカとブラジルから輸入した生地をスリッパに加工。その派手さが受け、1足3850円と高価格にもかかわらず、40~60代の女性から「こんなのがほしかった」と人気を集めている。

     ギフト用として買っていく客も多い。一つとして同じデザインがなく、左右の柄をそれぞれ自分で選べるのもポイントだ。

     ある催事でのことだ。初日にある女性がスリッパのデザインを気に入って1足購入した。数日後、その女性が再び売り場を訪れ、「履き心地が気に入った」と、さらに2足を買い求めていった。

     この「履き心地のよさ」が、南河原の技術力の証しだ。南河原産の特徴は、つま先から足の甲までをすっぽりと覆うスタイルと、クッション性に優れたかかと部分で、履き続けても疲れにくいことだ。また、丈夫で水洗いもできる。20年以上前から、高級スリッパ製造にシフトして技術を培ってきた。

     これまで南河原産のスリッパは、全国の百貨店などで1足2000円前後で販売してきた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で、百貨店などが休業したこともあり、製造会社は打撃を受けた。そうした中、南河原の技術と斬新なデザインを掛け合わせた「六大陸(州)」シリーズは、打撃の穴を埋め、わずかながら業績を上向かせている。

    かつては国内シェア8割

     埼玉県北部で利根川の南側に面した旧南河原村(06年に行田市へ編入)でスリッパ製造が始まったのは、戦後の1954年からだ。もともと農家が農閑期に作る草履がスリッパに切り替わっていった。80年代には村内に四十数社の製造会社があり、関連産業も集積してにぎわった。村の90%の世帯が製造に関わり、当時の生産量は年約3100万足で、国内シェアの8割を占めていた。

     しかし、90年代になると中国製品の輸入が増えたり、山形県内にスリッパの一大産地ができたりしたことでシェアを奪われていった。近年の生産量は年50万~60万足で、国内シェアは1~2割に。経営者の高齢化で廃業する会社も多く、現在、操業しているのはわずか4社だ。

    南河原商工会には南河原で製造されてきたスリッパが並ぶ
    南河原商工会には南河原で製造されてきたスリッパが並ぶ

     こうした中「南河原の技術を残したい」という思いで立ち上がったのが、南河原商工会の佐野和美さんだ。佐野さんは15年ほど前にパートとして同商工会に入り、7年前から経営指導員を務めている。経営指導員は、会員企業の経営支援が主な役割で、商品開発のプロではない。しかし、南河原の産業を守ろうとする気持ちは人一倍強かった。

    4年がかりで新商品を開発

     そんな佐野さんは17年、技術の担い手を探すことを目標に、南河原のスリッパをブランド化するプロジェクトを始めた。同商工会の役員、製造会社の経営者、中小企業診断士など10人ほどが集まったが、プロジェクトは重苦しい雰囲気に包まれていた。「いまさら何かを始めたって、衰退は止められない」という諦めムードが漂っていた。

     当初は製造会社も懐疑的で前向きな反応は少なく、佐野さんが工場を訪ねても入れてもらえないことがあった。実際にプロジェクトを進めるためのヒトもカネもなかった。

    南河原のスリッパをブランド化するプロジェクトを始めた南河原商工会の経営指導員、佐野和美さん
    南河原のスリッパをブランド化するプロジェクトを始めた南河原商工会の経営指導員、佐野和美さん

     そこで佐野さんは地域資源の活用に関する県の助成金を申請し、この資金で新商品の開発を目指した。中小企業診断士から県内を拠点に活躍するデザイナーの紹介を受け、開発に着手した。

     デザイナーから提案を受けたのは、アフリカの伝統柄の生地を使うことだった。ここから「六大陸(州)」シリーズの開発が始まった。最初は国内の古着店で手に入れた古着を手作業で解体し、端切れのような生地から80足を試作して売り出すとすぐに完売。ギフトショーに出展すると好評だった。その後、ブラジルの柄の提案を受けて、ラインアップに加えた。

    六大陸(州)シリーズはこれまで1300足ほど生産し、その半分を既に売り上げた
    六大陸(州)シリーズはこれまで1300足ほど生産し、その半分を既に売り上げた

     「六大陸(州)」シリーズはこれまで1300足ほど生産し、その半分を既に売り上げた。「六大陸(州)」の名前の通り、アフリカ、南米のブラジルだけでなく、欧州やアジアの柄も展開する計画で、25年に年3万足販売することを目指している。

     だが、プロジェクトはまだ軌道に乗っているとはいえない。南河原がスリッパ産地だという知名度にも欠けている。ユニークな高級スリッパとして、生き残っていくための模索が続いている。

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