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自治医科大学附属病院 地域の大規模接種センターに薬剤師を派遣しCOVID-19に積極対応

自治医科大学附属病院の今井靖薬剤部長
自治医科大学附属病院の今井靖薬剤部長

自治医科大学附属病院(栃木県下野市)は、建学の精神「医療の谷間に灯をともす」が示すように総合医的精神を尊ぶ伝統がある。一方、北関東における高度医療の拠点として47 診療科、1132 病床を持つ。COVID-19の流行時には、薬剤部も所属する薬剤師を地域の大規模接種センターに派遣するなど、積極的に関わった。病院長補佐を務め、循環器内科部門の医師として診療も受け持つ今井靖薬剤部長に薬剤部の取り組みについて聞いた。(毎日メディカルジャーナル編集長・吉川 学)

――自治医大病院の特色は

 まず、自治医科大学は地域医療を担い牽引する医師を育てることが使命で、各都道府県から毎年2、3 人の学生が入学し、地域の患者さんの多彩なニーズに対応出来る総合医を目指し学んでいます。附属病院は北関東での最大規模の医療機関の一つであり、地域医療への貢献、高度医療の実践、医師・看護師育成等と多くの役割を担っています。

――薬剤師、薬剤部の活動のうち、病院の特色に関係するものは

 自治医大は地域医療の砦ともいうべき拠点病院の一つであり、多くの方がイメージされる調剤などの中央業務以外に、病棟支援や薬剤師外来等の診療業務にも従事しチーム医療の一員として多職種連携に積極的に参画しています。自治医大は栃木県南および隣接県から実に多彩な患者が集まってきますが、医師・看護師と同様、薬剤師も幅広く患者さんへの対応が求められています。さらに予定入院に比して救急患者が相対的に多く慌ただしい病院です。

――COVID-19に対して、薬剤部が取り組んでいることは

 集中治療部を中心に関連診療科が新型コロナウイルス感染症患者重症例を受け入れ管理されていますが、薬物療法が存分に行われるよう、また院内の感染拡大・蔓延を予防するための消毒薬等の配置等、薬剤部一丸となってCOVID19に取り組んでおります。

 最近では院内・大学内における職員・職域ワクチン接種に協力、決められた条件でのワクチンの適正保管・ワクチンの注射調整を担当しています。さらに院内・学内のみならず栃木県あるいは自治医科大学がある下野市などの地方公共団体が主催する大規模接種センターへも積極的に薬剤師を派遣し、地域医療に貢献しております。

――医師が薬剤部長を務めるメリットは

 薬剤部は従来からの調剤等の中央業務を維持しつつも、診療業務への参画強化が求められ、まさに転換期です。多くの病院・薬剤部では(当院も同様ですが)一旦入職すると長きにわたって勤務され実地・専門業務を深く掘り下げ研ぎ澄まされているわけですが、急速に診療参画へのシフトを行いつつある転換期においては、違う職種の視点が一定期間加わり、異なる価値観の共有・相互理解を進め新たな展開が得られる可能性・利点があると思います。

 一方、タスクシフトで薬剤部へは多彩な業務依頼が舞い込みます。すべて引き受けてしまうと、薬剤部はオーバーワークになってしまいます。受ける仕事と断る仕事をきちんと分別、調整しなければなりません。

 また医療は社会的貢献を第一義としつつも経済性も求められ、病院としての経費削減も必要です。薬剤部としては新薬を含め採用医薬品数を少し抑えて、医薬品の在庫管理の徹底と合わせ経費を抑制したいのですが、各科の医師からは医薬品の充実・新規医薬品の採用要請、等要望も多く寄せられます。高度な診療を維持しつつ医薬材料費の経費抑制という二面性に、医師であり薬剤部職員であるという立場を活かしたいと思います。

――医師からみた薬剤師とは

 診療科の縦割りが進む中、複数の病院や診療科にかかっている患者さんの薬の交通整理を行えるのはまさに薬剤師だと思います。薬の相互作用・副作用の把握、治療法・薬剤選択の提案・ポリファーマシーへの介入など、積極的提案が出来る薬剤師の先生が増えることを期待しております。

――薬剤部長として医師をどうみるか

 自分自身の反省もありますが、処方箋は内容を十分吟味しかつ確認し出すべきだと思います。入院患者への処方の場合、若手医師が一旦処方をしたものの、夕方には指導医が若手の処方内容を中止して別の処方をする、ということが日常茶飯事として行われています。薬剤部は出された処方箋に対して迅速かつ正確に対応するよう日々備えていることもあり、薬剤が中止・変更は薬剤師が調剤した内容が無駄になるばかりでなく、一包化や粉砕処理などの加工が行われると薬剤の廃棄につながるため、医師は細心の注意を払って処方箋を出してほしいと思います。また各医師におかれては入院症例あるいは外来・院内処方をされる場合、特に採用薬の中から考えてほしいです。

 これまで私は薬をオーダーする立場でしたが、今は受ける側にもおります。薬が実際どうやって調剤されるのか若手医師や医学生は是非一度、薬剤部に実習あるいは見学に来られて、ご自身の目で見て学ぶ時間を作って欲しいと思います。私自身、薬剤部に学ばせて頂いたことによって診療姿勢が大きく変わりました。

――薬剤師への提言を

 ジェネラルなファーマシストでありつつも専門や得意分野を持って欲しいと思います。診療現場に出る機会が増える中で、詳しい領域を磨くことも必要でしょう。また中のみならず外にも目を向け、他の医療機関で様々な工夫や取組みの見学・あるいは施設研修、また学会等での発表・意見交換といった他流試合も良いと思います。一歩前に進むために臆することなく挑戦してほしいです。

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