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オミクロン株とスポーツイベント、ヒントは東京オリンピックにあり?

『東京ルポルタージュ』
『東京ルポルタージュ』

 日本では新規感染者数が急減し、危機が遠のいたかのように思われた新型コロナ禍。新変異株オミクロン登場で新しい局面に入った。実際にどの程度の脅威になり得るのか、詳しい状況はわかっていないが各国は警戒を強めている。その中で、注目されているのがスポーツやエンタメ界への影響だ。フィギュアスケートGPファイナルは中止が決定し、年末に予定されているボクシングなどビッグイベントも先行きは不透明だ。

 そこで振り返るべきは東京オリンピック、パラリンピックの経験ではないか。石戸諭氏の新著『東京ルポルタージュ 疫病とオリンピックの街で』に、感染症コンサルタントとして活躍している堀成美氏に取材した「7月23日からの記録」にこんな描写がある。

 着目しているのは、現場でリスクを下げようとした有名、無名の実務家たちの存在だ。堀氏も東京オリンピックの医療チームに加わり、感染症対策を取り仕切った。肝心なことは彼女にとって、オリンピックは「真夏のマスイベント」だったことだ。過去に流行した感染症は新型コロナウイルスだけではない。現場には、知見が蓄積されている。過去の経験と照らし合わせ、イベントを仕切っていった。

《やるべきことはあらかじめ決まっている。混乱が起きないように選手や関係者にアクシデントが発生した際、現場の医師・医療スタッフで対応できるものとそうではないものを決め、混乱が起きないようあらかじめ搬送する医療機関を決めておく。感染症はコロナだけではない。マラリアなど輸入感染症への備えもいる。熱中症のような想定可能なアクシデントは、会場ごとに想定される患者数を弾き出し、重度の場合は近隣の病院と連携して対応するように手はずを整えておく。新型コロナについても想定可能なシミュレーションを関係者で共有したり、施設内のゾーニングなど専門的な知見が必要な対策を施したりはしたが、いずれも基本の域を出るものではないという。全ては「普段通り」だった。》(同書より)

 オミクロン株への対応をめぐる動きが直撃してしまったフィギュアスケートは致し方ないという考えはありかもしれない。だが、真夏のイベントの知見があるように、冬のイベント、屋内・屋外での開催にも同様の知見が備わっている。幸い、日本の新規感染者数は低いレベルにとどまっている。この状況を踏まえて、どこまで何ができるのかをあらためて政府も示す必要があるだろう。

「あらゆる問題をオリンピックに結び付けて大きく考えてしまうことの弊害は、現場で積み重ねられた経験から学べなくなってしまうことにある。堀たちの対策から学ぶことは多いと私には思えた。彼女たちが徹底した基本は、これからもあらゆる現場に応用できるのだから」(同書より)

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