半導体産業は新たな成長段階に。日本の強い製造装置・材料メーカーに期待=編集部
業界予測超える新次元成長 日本の期待は装置・材料=村田晋一郎/斎藤信世
<メタバース、グリーン、デジタル>
半導体の成長に異常な事態が起きている。半導体市場はミクロでは約4年周期で好不況を繰り返す景気の波「シリコンサイクル」があるが、マクロでは右肩上がりの成長軌道だ。この長期トレンドに変わりはなく、持続的な成長が半導体業界の共通認識になっている。しかしここに来て、業界の市場予測をさらに上回るペースで成長が加速している。(半導体 需要大爆発 特集はこちら)
上方修正の連続
世界の主要半導体メーカーで構成する「世界半導体市場統計(WSTS)」は毎年春と秋に市場予測を発表している。2021年以降の半導体市場の予測について、20年秋の予測から、21年春、21年秋と発表のたびに上方修正している。22年に世界の半導体市場は6000億ドル(約69兆円)を超える見通しだ。
また、半導体を製造するための製造装置・材料の市場の需要予測も上方修正が続いている。世界の半導体製造装置・材料メーカーの業界団体であるSEMIは、21年7月に発表した21年以降の製造装置市場の予測を21年12月に上方修正。21年の半導体製造装置は初めて1000億ドル(11・5兆円)を超えるとされる。さらに日本半導体製造装置協会(SEAJ)も、21年度の日本製の半導体製造装置販売高を21年7月発表の予想から21年10月、22年1月と2度にわたって上方修正している。
SEAJの牛田一雄会長(ニコン取締役会議長)は「新型コロナウイルス感染拡大に伴う社会変革、ニューノーマルの動きが加速し、パソコンやデータセンター向けを中心に予想以上に半導体製造の設備投資が進んだ」と語る。
半導体産業は、中長期でも高い成長が期待される。スマートフォンをはじめ、半導体を搭載している機器は、高機能化に伴い、半導体の搭載数を増やしていく。電子化が進む自動車も自動運転の実現に向けて、さらに半導体の搭載数は増えていく。
また、今後デジタルトランスフォーメーション(DX)により多くの産業領域で効率化が進んでいくが、その際にはデータセンター向けをはじめ多くの半導体が必要とされる。一方で、地球温暖化抑制や省エネの観点から、電力消費を効率化するパワー半導体の需要は高まっていく。
もともと半導体の需要が高まっている中で、今後の動向が注目されるのがメタバース(仮想空間)だ。利用者は自分の分身であるアバターを介して、仮想空間内でさまざまなサービスを受けたり、人と交流したりする。このメタバースの実現には、高機能の半導体が大量に必要となる。メタバースの到来が半導体のさらなる進化と需要拡大を促し、半導体産業はこれまでより数段階上の成長フェーズに移行すると期待されている。
国際分業の要に
半導体産業全体が成長していく中、日本はその波に乗れるか。
まず半導体については、CPU(中央演算処理装置)などのロジックや、DRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)などのメモリーでは、日本メーカーの存在感は低下している。
しかし、比較的ニッチな領域ではまだ高い競争力を持つデバイスもある。例えばソニーグループがトップシェアのCMOSイメージセンサー、三菱電機や富士電機などが手掛けるパワー半導体では、今後の成長が期待できる。
一方、半導体製造装置や材料はトップシェアを誇る日本メーカーが多い。
微細化の要である露光技術では、最先端のEUV(極端紫外線)露光装置こそオランダのASMLの独壇場だが、露光のためのマスクではHOYA、マスク検査装置はレーザーテック、感光材(フォトレジスト)ではJSRや東京応化工業など、塗布装置は東京エレクトロンと、露光の周辺技術では日本メーカーが業界をリードしている。その他に洗浄装置や薬液など日本メーカーが強い分野は多い。日本の製造装置・材料メーカーは現在の強みをさらに伸ばしていくべきだろう。
一方で半導体は国際分業を元にした産業でもある。SEMIジャパンの浜島雅彦代表は「フェアな開発競争が業界を成長させてきた」と語る。例えば、外国の半導体メーカーの製造拠点の近郊に日本の製造装置・材料メーカーが拠点を設けて、共同開発が行われている。
日本の製造装置・材料メーカーがその強さを伸ばし続ける限り、成長する半導体産業の中で、果たす役割もさらに大きくなっていく。
(村田晋一郎・編集部)
(斎藤信世・編集部)