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週刊エコノミスト Online 2022年の経営者

日米の戸建て住宅販売は逆転へ 大和ハウス工業が海外事業のさらなる拡大目指す理由=大和ハウス工業・芳井敬一社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 平岡 仁、大阪市北区の本社で
Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 平岡 仁、大阪市北区の本社で

海外事業のさらなる拡大目指す 芳井敬一 大和ハウス工業社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── 新型コロナの感染拡大は経営環境にどう影響しましたか。

芳井 2020年以降に入社した社員たちの働き方が全く変わってしまいました。住宅展示場が開けませんでしたので、先輩の背中をみて接客の仕方を学ぶことはできなくなりました。彼らがきちんと育っていくのか、心配な面があります。一方でオンライン会議システムを使った接客も始まっています。その対応力はすごいなと、頼もしくも思っています。(2022年の経営者)

── 影響が大きかった事業は何ですか。

芳井 ホテルやスポーツジムなどの事業が大きな打撃を受け、現在も影響は続いています。ただ、全体の業績は堅調に推移しています。さまざまな事業をバランス良く、ポートフォリオとして持っていることが、当社の強みだと改めて実感しています。

── けん引している事業は。

芳井 商業施設事業や賃貸住宅事業が引っ張ってきましたが、現在は物流など事業施設事業が加わり、業績は大きく跳ね上がりました。1990年代は住宅事業が会社を引っ張っていました。時代とともに主役になる事業が代わっているのが当社の特徴です。

── 戸建て住宅事業の見通しは。

芳井 住宅ローン減税が継続し、子育て世代向けの補助制度にも予算が付きましたので、初めて住宅を購入する人にとっては勇気づけられる環境です。コロナ禍で住宅展示場への来場も減少傾向にあるなか、どのように魅力を訴えていくかが大事です。「快適ワークプレイス」(防音機能を備えた小部屋)などの提案を始め、人気を集めています。

── 住宅建設に不可欠な資源や人件費が高騰しています。

芳井 木材や鉄の価格は3倍以上になっています。既にQC(品質管理)活動によって単価を抑えられる状況ではありません。我々の努力だけで吸収できる金額ではないので、顧客へ丁寧に説明していきます。

── 郊外型団地の再生事業にも取り組んでいます。

芳井 当社では60年代から全国で60カ所以上の郊外型の戸建て住宅団地を開発してきました。現在は少子高齢化が進んで、当時子供だった世代の多くが大人になってこの土地を離れてしまい、学校や病院がなくなってしまった団地もあります。街を作った事業者として責任があると考えています。例えば横浜市の団地にはコンビニを併設したコミュニティー施設を整備しました。この土地に住んで良かったと思ってほしいからです。

── 物流施設の開発に強みがあります。

芳井 延べ床面積では国内トップです。当社は建てて終わりという商売をしていません。地主、テナント、当社が三位一体となり、土地をどのように活用するか考えながら事業を進めています。ゼネコンとデベロッパー(開発業者)の両方の役割を果たせるというところに強みがあると考えています。

── 物流を含めた事業施設向けの投資額を2倍に増やしました。

芳井 物流施設の建設はこの先も好調に推移するとみているからです。また物流施設だけでなく、千葉県印西市でデータセンターの建設も進めています。当社としては初めての事業ですが、日本のビジネスモデルとなるような施設を目指しています。データセンターの市場は国内でもさらに大きくなると見込んでいます。

日米で戸建て逆転へ

── 海外事業が好調です。

芳井 米国の戸建て住宅販売は約5000戸(21年)に上ります。次の中期経営計画の期間(22年度から5年間)に日本(約7500戸)を抜くことになるでしょう。人口が減る日本とこれからも増える米国との差を感じています。

── 今後、海外事業をどう伸ばしますか。

芳井 米国では東部、中部、西部に拠点となる住宅会社があります。まずはこの現地の子会社を大きくしていきます。カリフォルニア州では商業施設を運営し、シカゴでは賃貸住宅事業を展開しています。物流施設についても、どのように参入するか考える時期にきています。米国のほか、豪州やオランダ、中国などでも事業を展開しており、海外事業の売上比率は現在の10%から30%ぐらいまで拡大させることを目指します。

── 創業100周年に当たる55年に売上高10兆円を目指す長期目標を掲げています。どう達成していきますか。

芳井 22年3月期の売上高は4兆3000億円に達する見通しです。ただ10兆円のために、IT事業を突然始めたりするようなことはありません。創業者の石橋信夫が掲げた「社会課題の解決」という使命に沿って、当社のフィールドの事業でしっかりと売り上げを伸ばしていきます。そのためには人材を育てていかなければなりません。人材がいなければどんな事業も成立しないからです。

(構成=神崎修一・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 2017年9月に樋口武男会長(当時)から突然呼ばれて、「社長をやれ」と言われたことです。一般的なトップ交代の時期ではなかったので、ピンチというよりもとても驚きました。

Q 「好きな本」は

A 古代ローマの皇帝であるマルクス・アウレーリウスの『自省録』です。社長就任後に読みました。

Q 休日の過ごし方は

A 来生たかおのレコードをよく聞いています。「甘い食卓」は大学時代から好きでした。


事業内容:戸建て住宅、賃貸住宅、マンション、商業施設、事業施設の建築など

本社所在地:大阪市北区

設立:1955年4月

資本金:1616億円

従業員数:4万8807人(2021年3月末、連結)

業績(21年3月期、連結)

 売上高:4兆1267億円

 営業利益:3571億円


 ■人物略歴

芳井敬一(よしい・けいいち)

 1958年生まれ、大阪府立大和川高校(現・大阪府教育センター付属高校)、中央大文学部卒業。81年神鋼海運(現・神鋼物流)入社、90年大和ハウス工業入社、東京本店長、取締役専務執行役員などを経て、2017年11月より現職。大阪府出身、63歳。

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